×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



02.意外と楽しい誘拐事件


あれから新一とは今まで通りの時間に戻った。

一緒にご飯を食べて、食事の後は珈琲を飲みながら今日のことを報告し合ったり、新一の部活の話を聞いたりして、そしてどっちかの部屋でゆったりと過ごしてから新一に家まで送ってもらう。
そんな平凡で幸せな時間。
変わったことと言えば、


「なまえ、」

『ん、…新一、最近やけに甘えたさんだよね?』


新一が前以上にあたしを抱き締めて離してくれなくなったことと、よくキスしてくるようになったことくらい。
キスと言っても、触れるだけのキスで、やっぱり新一お気に入りの頬キスが一番多いんだけど、最近ではツンて唇にもキス出来るようになったから、一歩前進?


「夏からなまえ抱き締める時間が減ってたから、なかなか充電がいっぱいになってくれねぇんだよ」

『それって、あたしのせいじゃないよね?』

「なまえ抱き締めてると落ち着くんだって」


ぎゅーってあたしが苦しくない程度に抱き締めてくれる新一はホントに可愛いと思う。


「なぁ、来年からは二人で海に行こうぜ?なまえの水着姿、他のヤローに見せたくねぇし」

『先生たちのとこに遊びに行った時はいつも二人で行ってるじゃない』


何故だか分からないけど、新一の独占欲が最近上がってる気がする。
お昼ご飯も明日香たちとじゃなくて、新一と二人で食べないかって誘われるくらいだ。
その話は先生たちがアメリカに行く前に話がついてたはずなんだけどな。


「別に河野はいいんだよ」

『うん?』

「問題なのは、蘭と園子だけでさ」

『…』

「っつーか、何であいつらがなまえの親友なのか、未だに信じられねぇんだけど、」


また始まった。
あの次の日から、新一はよく蘭と園子の悪口を言うようになった。
愚痴、くらいならまだいい。いくらでも聞くよ?
でも、友だちを悪く言われていいキモチなんかするわけがなくて、ずっと我慢してたんだけど、日に日に酷くなってくそれに、あたしもそろそろ我慢の限界が来そうだった。


『新一、いい加減にして。それ以上二人のこと悪く言ったら、あたしホントに怒るよ?』

「だってホントのことだろ?それにあいつらは、」


あたしが待ったをかけたのに、新一の言葉は止まらなくて、あたしは自分から表情が無くなっていくのを感じてた。
ヤバイな。これ以上聞いてたら、あたしがマジギレしちゃう。
あたしがこんな風になるのはホントに珍しいんだけど、滅多にキレたりしない分、一回キレるとタチが悪いのは自分でも自覚してる。
だから、新一が少し席を立った隙に迷わず新一の家を出た。


♪〜♪〜


「なまえ!オメー何黙って勝手に帰ってんだよ!!帰りは危ねぇから俺が送ってくって言っただろ!?」

『そうだったね。でも、今日はいいよ』


自分でもビックリするくらい声に抑揚がない。
思ってた以上に危険信号が出てる。
あたしはこんな風に感情が消えてからの方がヤバイんだ。
いつキレるか分かんないし、キレたら誰にも手がつけられなくなる。


「オメーどうしたんだよ?何か変だぜ?」

『自分で考えたら?それじゃ、おやすみ』

「あ、ちょっ!待てよ!なまえっ!!」


電話の向こうで新一が慌てた声を出してたけど、ムシして電話を切った。
いくら長年の付き合いがあって、気を許せる相手だろうが、言っていいことと悪いことがある。
最近の新一は…特に今日の新一は明らかに言い過ぎだった。
まぁ、これ以上言ったら怒るよって前置きまでしたんだ。
新一もすぐに気付いて、謝ってくれるだろう。

そう思ってたのに、あたしが期待し過ぎていたらしい。


「なまえ、どうしたのよ?学校行く前に家に来てくれ、なんてさ。あんたがそんなこと言うの珍しいじゃない」

『これ、新一に渡してくれない?って頼もうと思ったのよ』

「これってお弁当、よね?新一くんの分?」

『うん。園子、新一とクラス一緒だからいいでしょ?』

「そりゃ、そのくらい別にいいけど…いつもは自分で新一くんに渡してるのに、どうしたのよ?」

『今、絶賛喧嘩中なの』

「はぁ!?」


あれからしつっこく鳴ってた新一からの着信を全部ムシしてたら、新一からメールが来たんだけど、その内容が問題だった。
「何をそんなに怒ってんだ?」って。
それが逆鱗に触れたのか、余計に怒りボルテージが上がっちゃって、そのメールもそれ以降のメールも返信さえしてない。
つまりはあの電話以降、一切連絡を取ってないわけで。
いつもなら、いつお弁当を持って行くとか連絡してたんだけど、今日は園子に頼むことにした。


『まぁ、喧嘩って言っても、あたしが一方的に怒ってるだけなんだけどね。今は新一の顔も見たくないの』

「…あんた、よくそんな相手のお弁当作る気になれるわね。あたしなら絶対作らないわよ?」

『それとこれとは別。有希子さんに新一の食生活頼まれてるんだもん』


お弁当を作るくらいは別にいいんだよ。いつものことだし。
ただ、いつキレるか分からない無表情モードに突入しちゃうのが困るだけでさ。
学校でそんな状態になるわけにはいかないじゃない。


「なまえちゃん、工藤くんと喧嘩してるってホントなの?」

『どうして明日香がそのこと知ってるの?』

「なまえ知らないの?今、学年中この噂で持ちきりだよ?」

『なんでそんな大事になってるのよ…たかがカップルの喧嘩じゃない』


いつものメンバーでお昼ご飯を食べてると蘭から信じられない言葉を聞いた。
確かにあたしは今日、休み時間の度にあたしの教室に来る新一から逃げてたけど、何で午前中だけで学年中の噂になってるのよ?


「たかが、じゃないわよ。あんたたちカップルは1年にも知られてるくらい有名なカップルなんだから」

「なまえちゃんたち、伝説のカップルだもんねー」

「そうそう。それに、私たちの学年はなまえと新一の馴れ初めから知ってるじゃない?だから、噂が広まるのも早かったんだよ。ついに新一が捨てられるのか!ってさ」

『ついにって何よ?』


伝説やら有名やらって単語も気になったけど、そこが一番気になった。
あたしが新一を捨てるの前提なわけ?


「なまえの新一くんに対する尽くしっぷりが半端ないから、いつ新一くんがなまえに愛想尽かされるか賭けてる子たちがいるのよ」

『また勝手な…』


他人の恋愛を賭事の対象にするな。
いくら恋愛に興味津々な年頃とはいえ、その内容が不謹慎な上に、失礼極まりないじゃない。
誰よ?そんな傍迷惑な賭事始めたヤツは。


「でも、ホントに何があったの?また新一が何かしたんだったら、今度こそ私が新一ぶっ飛ばしてあげるよ?」

『実はね、』


最近、新一が蘭と園子の悪口ばっかり言ってて、それが酷くなる一方だったから、あたしがキレそうだったのよ。
そう説明する前に、誰かが階段をかけ上がって来る音が聞こえて、あたしは急いでお弁当箱を片付けた。


「なまえちゃん?どうしたの?」

『新一が来たら、あたしはもう帰ったって言ってね?』


それだけ三人に伝えると、あたしは入口から死角になる場所に張り付いた。


「なまえっ!オメー、いい加減何があったかくれぇは話せよなっ!!…あれ?なまえ、オメーらと一緒に飯食ってたんじゃねぇのか?」

「なまえなら、新一くんが来る前に逃げちゃったわよ?」

「んだよ…また空振りかよ」


新一が園子たちの元へ向かったと同時に閉まりかけてた扉を開けて屋上を後にした。
後は園子たちがうまくやってくれるはずだ。
とりあえずあたしは新一から逃げることに専念したらいい。



いくら彼氏だって、あたしの友だちを散々に悪く言った人を簡単に許せるわけないじゃない!


- 9/17 -
prev next

戻る
[ +Bookmark ]