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「なまえっ!!」
『新、一…』


玄関の扉も邪魔だと乱暴に開けると、なまえがどうして俺がここに居んのか分かんねぇって顔をして戸惑ってるみてぇだった。
いつもは吸い込まれるくれぇに澄んでるはずの大きな瞳は今は赤くなって腫れている。
こいつ、此処でも泣いてたのか…。

なまえの横には、何度も見たことのあるキャリーバックが置かれていた。
母さんたちがプレゼントしてくれたんだって、母さんと買い物に行ったその日に嬉しそうに俺に見せてくれたのを今でもはっきり覚えてる。
なぁ、それは俺と一緒に父さんたちのとこに行く時専用なんだってオメー言ってたじゃねぇか。
何一人で出て行こうとしてんだよ。


「もうこの家には来ねぇつもりなのか?ここはオメーのもう一つの家だろ?」


此処があたしの居場所なんだって、オメー何度も言ってたじゃねぇか。
俺の隣が自分の居場所なんだって、可愛いこと、言ってくれてたじゃねぇかよ。


『だって…新一はあたしに来て欲しく、ないんでしょう…?』


なまえの瞳から大粒の涙が耐えきれなくなったように零れ落ちた。
分かってるよ。
オメーだって、ここを出たくはねぇんだろ?
だったら、ここにいろよ。
俺の傍に居てくれよ。


「なまえ、昨日のあれは」
『イヤだ!聞きたくないっ!!』


誤解だって説明をする前に、なまえに拒絶されてしまった。
両手で耳を塞いで、瞳を固く閉じて、踞って小さくなって怯えてる。
俺が、これだけなまえを追い詰めちまった。
好きな女一人守れねぇなんて情けねぇ。


「なまえ…頼むから話くらい聞いてくれよ」
『別れ話なんて聞きたくないっ!もうあたし出ていくから…新一の前からいなくなるから…』
「バカなこと言ってんじゃねぇよっ!!」


誰が別れ話なんかすっかよ。
出て行って欲しいなんて思ったこともねぇよ。
俺の前から居なくなる?お前、ずっと俺の傍に居てくれんだっつっただろーがっ!!

なまえが固く閉じてた瞳を恐る恐るって感じで開いて俺を見てる。
その瞳が不安で揺れてる。
俺、オメーにこんな表情させたかった訳じゃねぇんだよ。
なまえを傷付けた罪悪感でどうにかなりそうになりながら、少しでも慰めになればって久しぶりになまえを抱きしめたら、なまえがビクリと体を震わせた。
でも、こんな状態のなまえを俺が離せるわけがねぇだろ?
どうやったら、俺が狂いそうなくれぇにオメーのことが好きなんだって伝わるんだよ。


『あたしが悪いんなら言ってくれないと分かんないよ。新一の気に障るようなことしてたんなら、ちゃんと直すから』


ほら、そうやってオメーはいつだって自分のことより俺を優先すんだ。
俺もそうでありてぇのに、まだまだガキで、すぐに自分のことでいっぱいいっぱいになっちまって、オメーを傷つけて不安にさせちまってることに気付かねぇ。

なぁ、なまえ。
俺、もう無理だって。
オメーに触れちまったから我慢出来ねぇよ。
オメーはこんな俺のワガママな欲望まで受け入れてくれっか?


「こんな風になまえを抱き締めてたら、今までは満足してたんだけど、もうそれだけじゃ足りねぇんだよ」
『新一?』
「抱き締めてたらキスもしたくなるし、なまえの全部が欲しくなる。俺がなまえを壊しちまいそうで、怖かったんだよ…」


なまえを一度抱いたら、今は満足するかもしれねぇ。
でも、オメーは俺を惹き付けて離さねぇから、いつか俺の手で大事なオメーを壊しちまいそうで怖ぇんだ。
この腕の中にある温もりは何より大事なもんなのに。


『それだけ…?』


なまえが不思議そうな声をあげるから、俺の必死な告白がバカみてぇで顔が熱くなった。
これ以上情けねぇとこなまえに見られたくねぇから、俺の胸になまえの頭を抱き寄せた。
それだけって…俺は告白ん時みてぇに、オメーに拒否られるんじゃねぇかってずっと不安だったんだぞ!?
だから、一人で悶々としてるしか出来なくてだな…


「これでも思春期の男なんだから、好きな女が同じ家に居るってなると色々考えちまうんだよっ!」


もうヤケを起こして、素直にキモチを暴露したら、なまえがクスクスと笑い出した。
なまえの笑い声はいつ聞いても心地いい…けど、


「オメー、いつまで笑ってんだよ?」
『ごめんごめん。安心したら、つい笑っちゃった』
「え?」
『あたしに興味なくなったんだとばっかり思ってたから』


そう言ってキレイな顔で笑うとなまえは俺にキスして来た。
…オメー、さっきの俺の話聞いてたのかよ?それとも、俺を誘ってんのか?もっかい同じことして来たら、マジでこの場で押し倒すぜ?


『女の子だって、似たようなこと考えるんだよ?』
「え?」
『好きな人に抱き締めてもらったり、キスしてもらえたら嬉しいもの。…それに、ずっと二人きりでいるのに、何もないってあたしに興味ないのかなぁ?とかあたしって魅力ないのかなぁ?って不安にもなるんだから』


それだけ言うとなまえは俺に抱きついて来た。
たぶん、んなこと言ったのが恥ずかしいんだと思う、けど。

悪ぃな、なまえ。
そんなことされても可愛いだけで、俺、もう我慢出来ねぇや。
なまえも俺と同じで、俺がなまえを求めてるように、俺を求めてくれてたんだと思うと嬉しくて仕方ねぇんだ。


『ん…はぁ…』


深くなまえに口付けると、時折漏れるなまえの甘い声が、一層俺を駆り立てた。
なまえも俺の首に腕を回して舌を絡めて俺に応えてくれるから尚更止まらねぇ。

なぁ、なまえ。
何にも不安に思うこたねぇんだよ。
俺はこんなになまえのことが好きで好きで仕方ねぇんだから。
オメーは俺の隣で笑っててくれれば、それでいいんだ。
俺が全力でその笑顔を守ってやっから。

俺はやっとなまえを手に入れた幸福感に満たされながらも、やっぱなまえの全部が欲しくて、今夜は勇気を出してなまえを誘ってみようと決意した。

なまえが酸素を求めて苦し気な息をしてんのは分かってたけど、でも、今はもう少しだけこの甘い口付けを続けさせてくれ。


それで、やっとちょっとだけ満足したから、少しだけ唇を離すと、さっきまで閉じてたなまえの瞳が開いて、俺を見つめるオメーの快楽に潤んだ瞳が俺ん中の欲に火を付けた。
もっとなまえが欲しいってな。

だから、柔らかくて触り心地のいいなまえの髪に指を絡ませて、俺から逃げられないようにしてから、もう一度なまえの唇に自分のそれを重ねた。

悪ぃけど、気が済むまでさせてくれな。
今までガマンしてた分、止まんねぇんだ。




元々、オメーを手離すつもりなんか欠片もなかったけど、もうオメーと離れるなんてぜってー出来ねぇよ。

俺に寄り添って幸せそうな顔して眠ってるなまえの髪を撫でて、そんなことを考えながら、俺もなまえを抱き寄せて夢の世界に旅立つことにした。



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