『昨日は急に来て泣いちゃってごめんね?』
「そんなの気にしなくていいのよ!」
いつも泊まりに来たってあたしより絶対に早く目を覚ますなまえが、あたしが起きてもまだ眠っていた。
それだけ新一くんとのことにショックを受けて苦しんでたんだと思うと、あたしも新一くんを一発ぶっ飛ばさないと気が済まない気がする。
起きたなまえは、自分がなんであたしの部屋にいるのか分からなかったみたいだったけど、昨日のことを思い出したのか、申し訳なさそうに謝って来た。
バカね。そんなこと気にしなくていいのよ。
寧ろ、あたしはあんたが泣きながらあたしのとこに来てくれたのが嬉しかったんだから。あんたがあたしを頼ってくれた、ってね。
なまえと一緒に遅めのモーニングを食べてると、蘭から新一くんが来たって連絡が入った。今は不安定ななまえの傍にいてあげたいけど、新一くんへの制裁はきっちりやらないと気が済まない。
「なまえ、これからあたし、蘭のとこで新一くんに昨日のこと聞いてくるけど、あんたはどうする?うちにいる?」
『ううん。帰るよ。新一がいないなら、今の内に新一の家のあたしの部屋も整理したいし』
「なまえ…」
『先生に貰った合鍵も返さなくちゃね』
笑う余裕なんかないクセに、無理に笑うなまえの寂しげな笑顔が見てられなくて、あたしはなまえを思いきり抱き締めた。
「あたしがなまえの代わりにきっちり新一くんとっちめて話聞いてくるから!」
『…ありがと。園子大好きだよ』
じゃあねってなまえとは新一くん家の前で別れたけど、何かもう会えないみたいな言い方しないでよ。
あんた、本気であたしたちの前からいなくなる気じゃないでしょうね?
そう思ったけど、口には出さなかった。
きっとなまえは誤魔化して言わないだろうし、それより今は新一くんを締め上げる方が先だ。
「ちょっと、新一くん!昨日の発言はどういうことなのか、きっちり説明してもらいましょうか!?」
「だーかーらっ!蘭にも散々言ったけど、俺には何も心当たりがねぇんだって!」
蘭の部屋に着くなり、蘭から逃げ回っていた新一くんの襟首を掴み上げて揺さぶった。
心当たりがないですって?
ふざけんじゃないわよ!!
「蘭、昨日の発言、新一くんに言った?」
「ううん。まだ。それより先に新一を一発殴るか蹴るかしないと気が済まなくて」
「オメーの怒り狂った本気の蹴りなんか喰らったら俺が死んじまうだろうが!!」
「いっそ死んじゃえば?あんな発言しといて覚えてないとかほざくんだから」
「園子、テメー他人事だと思って好き勝手ぬかしやがってっ!」
「他人事じゃないわよ!昨日も言ったでしょう!?あんたがなまえ泣かせた時点で、あたしたちの問題でもあるのよっ!!」
あたしの剣幕に圧されたのか、新一くんが黙りこくった。
「いいこと教えてあげるわ。なまえ、今何してると思う?あんたん家の自分の部屋整理しに行ってるのよ。おじ様にもらった合鍵も返さなくちゃって言ってたわよ?」
「なっ!?」
あたしの発言を聞いた途端、信じられないって目を見開いた後に、蘭の部屋を飛び出そうとしたから、蘭と二人がかりで全力で新一くんを押さえにかかった。
「離しやがれっ!テメーらと悠長に喋ってる場合じゃねぇんだよっ!!」
「だから!昨日の発言の言い訳ぐらいしてから行きなさいって言ってんでしょ!?」
「だから、昨日からオメーらは一体何のことを言ってんだよ!?」
「なまえが新一くんの家に泊まりに来て欲しくないけど、本人に言えないってあんたが言ったんでしょう!?」
「なっ…何でオメーがそのこと知って…まさかっ!?」
「そうよ!なまえが聞いてたの!だから、もう新一くんに捨てられるんだって昨日散々泣いてたのよ!!」
やっと原因が分かったらしい新一くんは抵抗を辞めた。
と、思ったのも束の間だった。
「やべっ!あいつそこだけ聞いたんなら勘違いしてんだ!早く行かねぇとっ!!」
「新一!なまえんとこ行きたいんだったら、その前に私たちにちゃんと弁解してから行きなさいよねっ!!」
「げほっ…おい、蘭。テメー、今のモロに入ったぞ?」
「狙ってやったんだから、当たり前じゃない!喋れるように手加減してあげたんだから有り難く思いなさいよね!」
蘭の一撃で新一くんはあっさりと床に沈んだ。
さすが、蘭。頼りになるわ。
「それで?どういうつもりでそんなこと言ったのよ?新一、なまえのこと好きだったんじゃないわけ!?それともなまえが心配してたみたいに、単なる便利な家政婦だと思ってるとか言うんじゃないでしょうね!?」
「は?何のことだよ?」
「なまえが言ってたのよ。最近、新一くんが自分のこと避けてるから、もう冷めちゃったんじゃないかってね」
「んなわけねぇだろうがっ!!」
威勢のいいこと言ってるけど、床に沈んだままだから怖くもなんともないわね。
床に這いつくばってる新一くんを、蘭と二人で仁王立ちして見下ろしながら、詳しく話を聞かせろって先を促した。
「でも、なまえ言ってたよ?みんなで海行った辺りから、新一に避けられてるって。初めは気のせいかと思ってたけど、最近酷くなったって」
「なまえがあんたん家に行った時もあんたが食事の時以外は部屋に籠って出て来ないから、ろくに話もしてない、とも言ってたけど?」
「そ、それは、だな…」
「「それは?何よ?」」
それから新一くんが暴露した話は、聞いててバカらしくなるくらい、とんでもなくくっだらない内容だった。
こんな情けない男がなまえの彼氏なのかと思うと、蘭じゃなくても辞めときなって言いたくなるわ。
「あんたたち、まだヤってなかったわけ?あんた、この2年間何してたのよ?」
「…」
「そりゃあ?前からなまえは可愛かったけど、最近のなまえは前より美人になってるし、胸も大きくなったけど…水着姿見てから理性抑えきる自信がなくなったからってなまえのこと避けるとか…新一バカじゃないの?」
「…」
「寧ろ、抑える必要ないでしょうが。あんたたち付き合ってんだから」
「…」
「あーあ。そりゃあなまえも不安になるわ。自分に触って来ないわ、自分のこと避けられてるわ、挙句昨日の発言?新一くんに捨てられるってちょっとなまえオーバーかなぁって思ってたけど、全っ部あんたが悪いんじゃない!!」
「…スミマセンデシタ」
「もう動けるんでしょ?さっさとなまえんとこ行って、誤解といて、ついでに押し倒して来なさいよ」
「押しっ!?オメー、何言ってんだ!それでも女かよ!?」
「新一、どうでもいいけど、早く行かないとなまえホントにアメリカ行っちゃうかもしれないよ?」
「テメーらが無理矢理引き留めたんだろーがっ!!」
新一くんはそれだけ怒鳴ると蘭の部屋を出て行った、けど。
「ねぇ、蘭。あたしも蘭に同意だわ。新一くんになまえは勿体無いと思う」
「でしょ?だから、考え直したらって何回も言ったのに…。でも、まさか新一があそこまでヘタレだとは思わなかったけど…」
「ヘタレなのは最初から分かってたことでしょ?なまえ抱きしめたりは出来てたクセに、なっかなか告白出来なかったんだから」
はぁ、って二人でため息を吐いてから、暴れて散らかった蘭の部屋を片付けることにした。
これで、なまえがもうアメリカに行ったとかぬかしたら、さっさと連れ戻しに行って来いってまた追い出さないといけないじゃない。
ホントに世話の焼ける二人だわ…
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