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先生と有希子さんが準備してくれたあたしの居場所。
でも、もうここには来れないんだと思うと涙が止まらない。
初めてお泊まりに来てから、先生たちとの楽しい思い出がいっぱい詰まった場所。
先生たちがアメリカに行ってしまってからも、新一と一緒に過ごした大切なかけがえのない場所。
此処はホントにあたしの居場所だったのに…もう、此処には来ちゃ行けないんだ。

荷物を全部持ち出せる訳じゃないから、簡単に片付けだけして、あたしが持ち込んだ私物だけを持って帰ろうって有希子さんが買ってくれたキャリーバックに荷物を詰めていた。
このキャリーバックも有希子さんが長期休みは新一と一緒に遊びにおいでって持たせてくれたものなのに、もう新一と一緒に出かけることはないんだと思うと、涙は一向に止まってくれない。
ポタリポタリと荷物を濡らすあたしの涙が楽しかった思い出まで、哀しみに染めてしまいそうでイヤだった。

帰ったら、先生に電話をかけてアメリカに行かせてもらおう。
あたしのワガママなのは分かってるけど、もう日本には居られないんだもん。
他に頼れる人もいないし、それなら先生たちと一緒にいたい。
アメリカの先生の家にも、先生たちはあたしの部屋を作ってくれていた。
きっと受け入れてくれると思う、けど。息子と別れたあたしになんて先生たちも会いたくないかもしれない…。
ダメだったら、ダメだったでその時考えよう。

鍵はポストに入れておけばいいやって、この鍵を使うのも最後なんだってキーケースから外して、大事に握り締めていた時だった。


「なまえっ!!」

『新、一…』


玄関が乱暴に開いたかと思ったら新一が帰って来てしまった。
思い出に浸り過ぎてた?
時計を見ると園子と別れてから、もう2時間以上針が進んでいた。


「オメー、その荷物は何だよ?」


ぜぇはぁと肩で息をしながら、新一はあたしから視線を外して、あたしの隣にあるキャリーを睨み付けた。


『あた、しの、荷物…だけど…』

「もうこの家には来ねぇつもりなのか?ここはオメーのもう一つの家だろ?」

『だって…新一はあたしに来て欲しく、ないんでしょう…?』


情けない。
昨日園子の所であれだけ号泣して、今日もさっきまで散々泣いてたのに、また視界が滲んで来た。
あたしの頬を温かくて冷たい滴が零れ落ちて行く。


「違ぇって!昨日のあれはっ!」

『イヤだ!聞きたくないっ!!』


捨てられるのは分かってるけど、新一の口から直接別れ話なんて聞きたくなくて、耳を塞いでしゃがみ込んだ。
新一のいない間にこの家を出て行くつもりだったのに、どうして間に合わなかったんだろう。


「なまえ…頼むから話くらい聞いてくれよ」

『別れ話なんて聞きたくないっ!もうあたし出て行くから…新一の前からいなくなるから…だからっ!』

「バカなこと言ってんじゃねぇよっ!!」


新一が張り上げた声にビックリして言葉が詰まってしまった。
恐る恐る、固く閉じてた瞳を開くと苦し気な表情をした新一があたしの前まで来て、膝をついてあたしをそっと抱きしめた。
新一に抱き締められたのなんていつぶりだろう?


「何バカなことばっか言ってんだよ。誰も別れ話なんかするつもりはねぇし、俺はオメーを手放すつもりもねぇよ」

『え…?だっ、て、』

「蘭たちから話は聞いた。オメーを不安にさせちまったのはホントに悪かったって思ってる。でも、俺はなまえのことが嫌いになったわけじゃねぇんだよ…」

『だったら、何で?』


だって、ずっとあたしのこと避けてたじゃない。
昨日だって、泊まりに来て欲しくないって言ってたじゃない。
だから、あたし、もう新一には嫌われたんだって…嫌われたんじゃなくても、もう新一はあたしに恋愛感情はないんだって…あたしのキモチも存在も迷惑でしかないんだって思ってたのに。
意味が分かんないよ。


「俺はずっとなまえのことが好きだし、今でもキモチは変わってねぇよ」

『でも、あたしのこと避けてたでしょ?』

「あれは!」

『あれは?』


新一はそこまで言うと黙ってしまった。
あれは、何?


『何?あたしが悪いんなら言ってくれないと分かんないよ。新一の気に障るようなことしてたんなら、ちゃんと直すから』

「違ぇって!そんなんじゃねぇよ!あれは、オメーが悪いんじゃなくて…」

『なくて?』

「なまえを見ると抱きしめたくなっから…」

『え?』


抱きしめたくなるって、最近全然抱きしめてくれなかったじゃない。
それどころか、話したくないって、あたしの顔も見たくないっていうみたいに部屋に閉じ籠ってたのに…。
ますます意味が分かんないよ。


「こんな風になまえを抱きしめてたら、今までは満足してたんだけど、もうそれだけじゃ足りねぇんだよ…」

『新一?』

「抱きしめてたらキスもしたくなるし、なまえの全部が欲しくなる。俺がなまえを壊しちまいそうで、怖かったんだよ…」


それって…あたしを抱きたくなるって意味、だよね?
え?そんな理由で、あたしずっと避けられてたの?


『それだけ…?』

「…」


あたしはもう予想外な返答ばかりで、涙も止まってしまったんだけど、新一の方を向こうとしたら、頭を新一の胸へと押し付けられた。
でも、チラリと見えた新一の顔は真っ赤だったから、ホントにそれだけだったらしい。
久しぶりに感じる新一の鼓動は、急いでここまで来たせいで暴れてるのか、さっきの発言に照れて暴走してるのか分からないくらいに速かったけど、何だかそれがとても安心出来た。


「それだけって…俺は真剣に悩んでたんだぞ?これでも思春期の男なんだから、好きな女が同じ家に居るってなると色々考えちまうんだよっ!」


もうヤケを起こしてしまったらしい新一の発言に、あたしは笑うしかなかった。
何だ、あたしに興味がなくなったんじゃなくて、あたしを意識してくれてたから今まであたしを避けてたのか。
なんか、すっごい新一らしいや。


「…おい、オメーいつまで笑ってんだよ?」

『クスクス。ごめんごめん。何か安心したら、つい笑っちゃった』

「え?」

『あたしに興味なくなったんだとばっかり思ってたから』


あたしの顔を不思議そうに覗き込んだ新一に、あたしから触れるだけの口付けをした。
ら、新一に怒られた。何か、理不尽だ。新一が可愛かったから、ついキスしちゃっただけなのに。


「お、オメーなぁ!さっきの俺の話聞いてたのかよ!?」

『ちゃんと聞いてたよ?』


だから、キスしたんじゃん。
そういうこと考えるの、男の子だけの特権じゃないんだからね?


『女の子だって、似たようなこと考えるんだよ?』

「え?」

『好きな人に抱き締めてもらったり、キスしてもらえたら嬉しいもの。…それに、ずっと二人きりで一緒にいるのに、何もないってあたしに興味ないのかなぁ?とかあたしって魅力ないのかなぁ?って不安にもなるんだから』


何だか自分で言ってて恥ずかしくなったから、今度はあたしから新一に抱きついた。

まさか、男の子にこんなことを言う日が来るなんて思いもしなかった。
普通は自然とそういう風になるんだとばかり思ってたから、新一がしたくなったらそういう雰囲気にして誘ってくれるんだと思ってたのに、面と向かって意識し過ぎて近付けません、なんて言うんだもん。


「なぁ、なまえ。こっち向けよ」

『無理。もうちょっと待って』


あんな恥ずかしいセリフを言ってすぐに向けるわけないじゃん。
自分だって、顔真っ赤にしてる時は逃げてたクセに、あたしだけ新一の方を向け、なんてズルいよ。


「いいから、こっち向けって」

『ヤだって…んっ…』


新一の胸でイヤイヤって首を振っていたら、顎を掴まれて上を向かされた。
やっぱり新一はズルいよ。
こんな時にとろけそうなくらい、甘いキスをしてくるんだから。


『んっ…はぁ…』


新一の唇が角度を変えてはあたしを塞ぐから、息が苦しくなってきた。

新一、ホントにこれが初めてのまともなキスなわけ?
それにしてはすっごい上手なんだけど…どっかで体験済みなんじゃないの?
え?あたし、中1の時から新一の彼女だったよね?
もしかして浮気されてた?

頭の片隅で、そんなことを考えながらも、あたしも新一の首に腕を回して、新一のキスに応えていた。



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