「なまえ!?一体どうしたのよ?!」
『し、新一がっ…あたっ…ひっく…』
「とりあえず、あたしの部屋行くわよ?話はそれから聞いてあげるから」
自分の家に帰っても、新一に見つかってしまうと思ったあたしは園子の家へと逃げて来た。
園子の家に着いた時には、もう泣きすぎてうまく言葉も発することが出来なくなってしまっていたけど。
「新一くん、そんなこと言ってたの!?」
『園子…あたし、もうっ、無理、だよっ…っく…絶対、し、いちに…捨てっ、られっ…』
「なまえ…。とりあえず、今日はこのまま家に泊まって行きなさいよ。新一くんが言ってたことなんか忘れてさ。ね?」
何があっても簡単には泣かないなまえが、今は言葉が出ない程にボロボロに泣いてる。
さっきから必死で涙を拭ってるけど、追い付かないくらいに次から次へとなまえの大きな瞳からは大粒の涙が溢れていた。
止まらない涙に肩を震わせてるなまえは、何だかこのまま放っておくと消えてしまいそうな気さえする。
だから、うちに泊まって行きなさいって誘ったんだけど、小さく頷いた後、なまえはそのまま泣き崩れてしまった。
なまえをここまで泣かすなんて何考えてんのよ、あのバカ!
とりあえず明日新一くんを締め上げてとっちめてやるんだから!!
そう心に誓って泣き疲れて眠ってしまったなまえの髪を撫でていると、蘭から電話が来た。
「もしもし?」
「園子!大変なの!こんな時間なのに、なまえが新一の家にもなまえの家にも帰ってないんだって!今、新一が必死で探してるらしいんだけど、携帯も繋がらないし、これから私も」
「蘭、落ち着いて。なまえならうちに来てるから」
「えっ!?なまえ、園子の家に居るの!?」
「泣き疲れちゃって、今は眠ってるけどね。たぶん、うちに来た時からずっと泣いてたから、携帯にも気付かなかったのよ」
「泣いてたって、何で?」
「放課後、帰ろうとしてた時に、新一くんが“なまえに泊まりに来て欲しくないけど、言えない”って言ってるの聞いちゃったんだって」
「はぁ!?あいつそんなこと言ってたの!?」
「だから、もう捨てられちゃうってさっきまで泣いてたのよ。今も新一くんの名前呼びながら涙流してるしね。明日新一くん締め上げて、どういうことなのか聞き出してやろうと思ってるんだけどさ」
「…園子、それ、私も行っていい?」
「当たり前じゃない。寧ろ、新一くんを蘭の空手でとっちめてやってよ」
「今度という今度は新一許さないんだからっ!!」
「あ、新一くんにはあたしのとこに連絡来たらなまえのこと伝えるから、ほっといていいわよ?あんなヤツ、しばらく心配させとけばいいのよ」
普段は素っ気ない態度だけど、ホントは優しくて友だち思いで、みんなに好かれてるなまえ。
そりゃ、河野さんやあたしたちのことは特別大事にしてくれるけど、それでも新一くんはもっと特別で、なまえの支えだったはずなのに。
二人が付き合い出してから、なまえはホントに幸せそうに笑うようになった。
だから、あたしも応援してて良かったって、安心して二人を見守ってたのに!
なまえがこんなボロボロになるまで泣かせるとか、ホントにあいつ何考えてるわけ!?
♪〜♪〜
新一くんにイライラが募り過ぎて、どうしてくれようかと思ってたら、本人から着信が入った。
こいつ、いいタイミングで連絡してくれるじゃない。
「何よ?」
「はぁはぁ…なまえ、そっちに行ってねぇか?どこ探してもいねぇんだよ。ずっと連絡してんだけど、繋がんねぇし…後はオメーんとこと河野んとこくれぇしか思い付かなくてよ」
そんなに息切らせるまで探して、事件に巻き込まれたんじゃないかとか心配するくらいなら、はじめっからなまえ泣かさないでくれる?
「新一くん、明日時間作ってくれない?」
「はぁ?今はそれどころじゃねぇっつーの!なまえ探してんだってさっきから言ってんだろうが!!」
「だから、そのなまえを泣かせたあんたに話があるって言ってんのよ!」
「は?何言って」
「あんたのバカな発言のせいで、なまえボロボロに泣き崩れてたんだからね!?」
「なまえそこに居んのか!?」
「居るわよ?」
「はぁ…無事なら良かった…。なぁ、なまえに代わってくんねぇか?一言だけでも声聞いて安心してぇんだけど」
「あんた、あたしの話聞いてた?なまえなら泣き疲れちゃって寝てるわよ。どっかの誰かさんのせいでね!」
「園子、オメーさっきから何訳のわかんねぇこと言ってんだよ?」
「まさかとは思うけど、身に覚えがないとかほざくんじゃないでしょうね?」
「全くねぇんだけど?第一、俺が今日なまえに会ったのは弁当渡してもらった朝だけだぜ?」
「じゃあ、明日あたしたちに会うまでに今日の放課後の自分の発言思い出してなさい!」
「ちょっと待てって!俺、明日も部活が」
「へぇ?なまえよりサッカーが大事なんだ?分かったわ。じゃあ、これから今日のこと新一くんのおじ様に連絡してあげる。多分一番早い便でなまえのこと迎えに来てくれるわよ?」
「…。わーったよ!明日ドコに行けばいいんだよ!?」
蘭の家に集合をかけて、もう一度このバカって怒鳴ってから電話を切ってやった。
まだまだ言い足りないけど、続きは明日ね。
きっと蘭も一発や二発殴るなり蹴るなりしてくれるでしょうし。
『…し、いち…おいてか…で』
「なまえ…大丈夫よ。新一くん、なまえのこと好きじゃなくなったとかそんなんじゃないみたいだから」
だって、あれだけ息を切らせて取り乱してなまえのこと探すくらい心配してるんだもん。
なまえが無事だって分かった途端に、あんなに心底安心したような声出すんだから。
今でもなまえのこと好きに決まってるわよ。
放課後の発言は、きっと、何か別の原因があったのよ。
寝てるなまえに聞こえるわけないけど、流れ落ちる涙をそっと拭いながら、あたしはなまえに話かけていた。
ねぇ、なまえ。
あたしは、あんたの為に何が出来る?
あたしが泣いてあんたに電話したら、どんなにくだらない内容でも、それが何時だろうと飛んで来てあたしの気が済むまで、いつまでだってずっとあたしの話聞いてくれたわよね。
親友のあんたの為なら何でもしてあげたいって思うのに、あたしじゃなまえの涙を止めることすら出来ないじゃない。
なんだか、あたしまで泣きそうになったけど、今はあたしがしっかりしなくちゃいけないんだからって滲んで来た瞳を拭って、明日に備えてあたしも寝ることにした。
なまえを抱きしめて慰めることくらいしか出来ないけど、せめて夢の中でくらい笑っててよね。
あたしはいつものあんたじゃないと調子が出ないんだから。
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