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ハズレたpiece



小さい頃からずっと新一が好きだった。
でも彼は幼なじみの蘭が好きだと思っていたから諦めていた。
蘭はあたしの親友だから、彼女と幸せになってくれるなら、綺麗事と言われようが、偽善者と言われようが、それはそれで良かったんだ。

だけど、いつまで経っても付き合う素振りを見せない二人にイライラして、もうきっぱりフラれてこのキモチから卒業しようとしたのが、この前の春休み。
でも、返事は意外なものだった。


「俺もオメーの事が好きだったんだよ。ガキの頃からずっと、な」


夢じゃねぇよな?
なんてあたしを抱き締めてくれたけど、あたしの方が夢みたいだった。
え?蘭のことが好きだったんじゃないの?


「バーロー。蘭はただの幼なじみだよ。それになまえとのこと応援してくれてたのも蘭だぜ?」


なんてあたしの大好きな笑顔で笑われて、頭が真っ白になったのを覚えてる。

日直の仕事を終えて、待ってくれている新一の為に職員室から急いで教室に戻れば、そこには信じたくない光景が広がっていた。

泣いてる蘭を新一が抱き締めて慰めている。
あれ?
蘭はただの幼なじみだって言わなかった?
じゃあこれは何よ?



『っ!!』
「なまえ!?」


新一があたしの名前を呼んでくれたけど、それより何より今見た光景が信じられなくて、信じたくなくてあたしは教室から走って離れた。
二人から逃げた。


「なまえ!待てっつってんだろ!お前なんか誤解して…」
『触らないで!』


あたしを追いかけてきた新一に見事に捕まってしまって、あたしはそのまま癇癪を起こした。


『蘭を抱き締めたその手で触らないで!一人にして!蘭の傍にいたいなら居ればいいじゃない!泣いてる蘭慰めてあげてたんでしょ?あたしなんかほっといて!』


呆然とした新一に構わずあたしを捕まえていた手を振りほどいてその場を後にした。
誤解って何がよ?
蘭抱き締めてたのは本当じゃない。
やっぱり新一は蘭のことが好きだったんだ。あたしのことなんて…

急いで新一から離れたかったあたしは、足元をちゃんと確認してなくて、見事に階段から滑り落ちた。
身体中に衝撃が走ってあたしの視界は真っ暗になった。


『こ、こは?』
「なまえ!良かったー。気がついて」
『蘭?あたし、なんで?』


あたしのすぐ傍で泣いてる蘭に事情を聞くけど、蘭もパニクってるらしく、会話が成立しない。
どうやらあたしは学校の階段から落ちたらしい。
でも、何で?


「とりあえず新一にも連絡入れとかないと。新一も心配してたんだよ?でも事件があったって連絡があってさっき出ていったの」
『…?蘭、新一って誰?』


あたしの言葉にメールを打とうとしていた蘭の手が止まった。


「なまえ…?何、言って…?」
『新一って人、誰って聞いたんだけど…?』


どうやらあたしは変なことを聞いてしまったらしい。
蘭が酷く驚いている。


「な、何言ってるのよ!?新一よ、新一!なまえが子どもの頃からずっと好きで、この春からやっと付き合い出したんでしょう?!」
『ごめん…蘭…全然分からない』


蘭の傷ついた顔が見ていられなくて、目を伏せた。
新一…小さく呟いてみるけど、やっぱり覚えがない。

その後は、お父さんとお母さんが来たり、園子までお見舞いに来てくれたりと慌ただしくなったけど、記憶が一部ないということで両親は先生と一緒に何処かへ行ってしまった。


「なまえっ!!」


そんな時、よっぽど急いで来てくれたのか肩で息をしてる男の子が病室に入ってきた。



「よかった!目が覚めたんだな!?」
「新一…」
「新一くん、なまえ、新一くんのことだけ覚えてないんだって」
「!?嘘、だろ…?」


ぎこちなくこっちへと歩いて来てる彼が噂の“新一くん”らしい。


『貴方が新一くん?』
「冗談、だよな?蘭たちのことは覚えてるんだろ…?何、で俺のこと…」
『ごめんなさい…』


あたしが謝ったことで、これが嘘でも冗談でもないと分かったらしい。
彼は酷く傷ついた顔をしてあたしをきつく抱き締めて、ずっとあたしの名前を呼んでいた。
彼の腕が震えている。
あたしの彼氏、だった人。彼女に忘れられたらそれはショックだろう。
あたしは知らない人を抱き返す訳にもいかなくて、泣いてるように叫ぶように大きな声であたしを呼ぶ彼に、ただ謝ることしか出来なかった。





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