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ハズレたpiece 02


それから先生に聞いた話だと、記憶を失う前に何かショックな出来事があったんじゃないか、ということだった。
それに彼が関わっていたから、彼の記憶だけがないんじゃないか、って。

時間が経てば思い出すかもしれないし、もしかしたら思い出さないかもしれない。
それは先生にも分からない、とのことだった。


「でね、なまえ。この写真が小学校の修学旅行の写真でね、この写真が…」


あれから蘭も園子も時間があればアルバムとかを持って来て、工藤新一くんのことを話してくれた。
でも、修学旅行のことは覚えているのに彼と写ってるアルバムのことだけは覚えてなくて、何だか申し訳なくなった。
こんなにたくさんの写真が残っているのに、あたしには彼との記憶が何もない。


『ねぇ…蘭』
「何?」
『あたしどうして彼のこと忘れちゃったのかな?』
「!そ、それは…」
『こんなにたくさん写真が残ってるのに、何も覚えてないし、懐かしいって感じがしないの』
「…」
『でもね、彼、病室であたしを抱き締めてくれたじゃない?あの腕の中にいた時は、知らない人のはずなのに、なんかほっとするっていうか…懐かしかったんだ』
「なまえ、今の本当か?」


いつの間にそこに来たのか、蘭と並んで座ってたベンチの前に彼が立っていた。
期待してるような、あたしの言葉にすがってるような、複雑な表情をして。


『本当…です』
「なまえ…」


彼はあの時とは違って壊れ物を扱うみたいに優しく抱き締めてくれた。
やっぱりこの腕の中は覚えてる。
毎日あたしに負担のない程度に他愛ない話を聞かせてくれる、優しいこの人のことを思い出したい、な。


「悪ぃ…なまえが俺のこと忘れちまったのは俺のせいなんだ」
「新一!なまえ、違うの!あれはあたしのせいで…フラれたあたしを新一が慰めてくれてただけなの!」
『どうして蘭を慰めてたらあたしが彼のこと忘れちゃうの?』


ズキンと胸が大きく軋んだ気がした。
この話題はイヤだ。
聞きたくないと本能が言ってる。


「あたしが…あたしが新一に泣きついちゃって…それでその時になまえが教室に戻って来たから…たぶん誤解したんだと思う…。なまえごめんね。ホントにごめん…」


泣きながら抱きついて来た蘭には失礼だけど、あたしはさっきまで軋んでいた胸から痛みがなくなるのを感じていた。


『そう、だったんだ』
「ごめん…ごめんね」
『蘭、泣かないで。あたしなら大丈夫だから』


蘭の涙を拭いながら、何の根拠もないけど、あたしはもうこれで大丈夫な気がしていた。


『ごめん。ちょっと疲れたから病室帰ってもいいかな?』
「俺が送ってくよ」
『ありがとう』


何だか今は無性にこの人の笑顔が見たくなっていた。
いつも笑っていても何処か悲し気な表情で、写真の中の彼みたいな生き生きとした笑顔は見たことなかったから。
でも今はその笑顔がみたい。なんて、彼のことを忘れてるあたしが言えるわけがないんだけど。


『おやすみなさい』
「あぁ。おやすみ」


彼はいつもあたしが眠るまでそこに居てくれる。
時間がある時には起きるまで傍にいてくれて…お父さんが来たりすると、よくお父さんが一方的に怒ってるけど、あたしにはどうしても彼が悪い人には見えなかった。

目が覚めたら、彼のことを思い出していたらいいのに。
そんな事を思いながら、あたしは意識を手放した。


―――…


「なまえ…」


誰?


「なまえっ…」


そこにいるのは誰?


「なまえ、帰ってきてくれよ…」


何処に行けばいいのか分かんないよ…


「なまえ…」


向こう側が白く光って、あたしを呼んでる誰かが手を広げてあたしを待ってる。
きっとあたしの一番大好きな人。
あたしが一番愛してる人。
彼の元に走って行けば、彼はあたしを抱き締めてキスをしてくれた。

ゆっくり目を開けると酷く驚いたような顔をした新一がすぐ目の前にいた。


「あ…えっと…」
『クスクス、何をそんなに慌ててるの?新一』
「や、だから寝込みを襲おうとした訳じゃなくてだな…ってお前今、!?」
『新一、ただいま』
「なまえ…っ!!」


強く抱き締めてくれる新一の腕の中が、すごく心地良かった。


『新一、痛いよ』
「バーロー…ちったー我慢しやがれっ…」


ちょっと声も腕も震えているのには、気付かないフリをして、そっと彼の背中に腕を回した。




【ハズレたpiece】


貴方はあたしを創る一番最後で一番大切なピース。
きっと何度忘れてもこの温もりで何度でも思い出せるんだ。



→あとがき

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