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 つれない態度に、

命を狙われながら仕事をしていても、俺にはキッドになった時の楽しみってもんがある。
名探偵との勝負も血が騒ぐが、それ以上にポーカーフェイスさえ忘れてしまいそうになる程に心躍るのがなまえとの邂逅だ。


「今晩は。なまえ嬢。今宵もお美しい。貴女の前では闇をも切り裂くあの月でさえ霞んでしまいますね」
『お世辞はいいから、そろそろ下ろしてくれないかしら?』
「いえ、私は真実を述べたまでで、」
『どうでもいいけど、園子たちについて行く度にあたしを拐うのいい加減辞めてくれない?』


そう、なまえは毎回現場に来てくれるようなキッドファンじゃない。
今は小さくなっちまったなまえの彼氏である名探偵が現場に居るときでさえ、会えるとは限らねー。
ただ、鈴木財閥のお嬢様が絡んでる時、特にあのお嬢様が熱烈になまえを誘ってきた時にだけ現場に顔を出す程度だ。
あのお嬢様、もっと頻繁になまえを現場に連れ出してくんねーかな?とさえ思ってる。
だからこそ、俺はなまえを見つける度に、仕事終わりに拐ってるっつーのに、なまえが俺に靡くことは今までに一度だってない。


『毎回言ってるけど、貴方があたしを連れて行く度に園子が煩いのよ。いい加減ターゲットのついでみたいにあたしを連れてくの辞めてくれないかしら?』
「ついでなんてとんでもない。なまえ嬢と二人きりで過ごせるこのひと時こそが私にとってはメインですよ」
『嘘つき。貴方は目的があるからこそのその姿でしょう?まぁ、売られた喧嘩は買う主義みたいだから、余計な仕事までやってるみたいだけど』


楽しそうに話すなまえにドクンと心臓が騒ぎ出す。
俺はなまえの歌を聴きに河原に通ってる時どころか、キッドの姿だろうが何も話してねーってのに、なまえは俺の事情を知ってるかのように話してくることが多々ある。

これじゃあ、なまえを危険なことに巻き込みたくねーからって黙ってる意味がねぇのは分かってんだけど、余計なことを話してなまえを危険に晒すようなマネだけはしたくねー。
…本当はこうやってなまえを連れ出して、二人きりになるのも好ましくねーことだって分かってる。
分かってはいるんだ、けど。


「なまえ嬢、以前の件ですが、そろそろ許していただけましたか?」
『その前にあたしは今の状況が迷惑だって話をしてるんだけど?』
「貴女の宝物である、そのブレスレットを無断で拝借した件ですが、」
『貴方、あたしの話聞く気ないでしょう?』


前に、なまえのブレスレットを勝手に拝借して、なまえを怒らせたことがある。
声を荒げるでもなく、笑みさえ浮かべて静かに怒りを宿す瞳も、これだけは許さないと迂闊に俺が動くことも発言することさえも許さないというような張り詰めた空気を纏ってる姿も、息を飲んで見惚れてしまったくれーだ。
なまえがあんな風に感情を露にするのは、あの時まで見たことがなかったから余計かもしれない。


「まだ許していただけないのでしたら、やはり何かお詫びを」
『何をしてもらってもあの件だけは許さないわよ。だから、その話題は辞めて。思い出すだけでもイライラする』


あの件を何とかして許してもらえねーかと思ってんのに、なまえは聞く耳すら持っちゃくれねー。
イライラしてるなまえも、威嚇してる猫みてーで可愛いんだけどな。
でも、あの時のなまえの声と表情が忘れられねー俺には、この話題をそのまま流すなんてことは出来ねーんだよ。


『探してる間中、無くしたんじゃないかって…このまま見つからないんじゃないかって思ったら…怖かったんだから』


泣きそうな顔してそう言ったなまえの声は聞いたことねぇくれーに弱々しくて震えていた。
俺がそこまで不安にさせちまったんだと思ったら、何とかして挽回したくなった。


『それに、何度も言ってるけど、あたしは貴方の敵に回るつもりはないのよ。勿論、味方もしないけれど』


警察に目を付けられても面倒だしね。
そう言って悪戯に笑うなまえは月灯りに照らされてとても綺麗だった。
自然と速まってく鼓動を抑え付けてポーカーフェイスを保つのが精一杯だ。


「それなら、せめて私と二人きりの時間をもう少し楽しんでいただけませんか?」


味方はしねーけど、敵には回らねー。
つまりはあの件を根に持って俺のことを嫌ってるわけでもねーんだろうって解釈してんだけど、なまえはキッドの姿をしていても、普段の俺に対する態度と変わらずつれない態度だ。
せめて、この姿の時にだけでも俺に好意的に接してくれたら、そっから踏み込んでいけんのに、やんわりと線を引かれてるようなこの距離感がもどかしい。


『だって、貴方に連れ去られた後に帰ると、新一も園子も煩いんだもの。そんな厄介なことが待ってるのが分かってて、何をどう楽しめって言うのよ?』
「それでは、彼らに分からないように逢うのでしたら、私との時間を楽しんでいただけますか?」
『家に来るっていうなら辞めてよね?』
「どうしてです?秘密の逢瀬というのもよろしいのでは?」


これで頷いてもらえるようなら、夜になる度になまえの家に押しかけるつもりだったのに。
即答で断られたことを少し残念に思っていると、なまえが距離を詰めて背伸びして俺の耳元に口を近づけた。
その行動にも驚いたけど、続いて発せられた言葉に俺は完全に動きを封じ込まれた。


『あたしが諦めません宣言してる男の子を簡単に家にあげるとでも思ってるの?』
「え?」


え?俺だってバレてんの?
元通り俺から少し距離を置いたなまえを引き止める暇さえなかった。


『夜に家に来られても部屋には絶対あげないわよ?貴方を家にあげた時点で警察に事情を聞かれそうだもの』


含みのある笑みをしてるなまえは、「諦めません宣言をしてる男を夜に家にあげるようなマネするわけないでしょ?」と言ってるように見えた。
なんだ、俺だって初めっから知ってたから俺への態度とキッドへの態度が変わらなかったのか。
それなら、どっちで攻めようが俺からのアプローチだって受け取ってくれるって意味だよな?



君のつれない態度に

どうしても俺に振り向いて欲しくなった。


「それでは、ブレスレットの件のお詫びにデートに行きませんか?なまえ嬢の好きな場所へエスコートさせていただきますよ?」
『それが例え水族館でも付き合ってくれるの?』
「…どこか別の場所にしませんか?」
『冗談よ。貴方が絶対に行けないことが分かってたから言っただけ。じゃあ、今日は帰るわね。もう十分でしょう?』


すたすたと帰って行くなまえを見送りながら、そういえばなまえは夜景を見るのが好きだと以前言っていたのを思い出したのは帰り道に空を飛んでた時だった。

今度誘ってみっかな。



(つれない態度を取られる度に、俺を見て欲しくなんだよ)


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