「お嬢さん、雨止んだみたいですよ」
どれだけ工藤優作ワールドに引きずり込まれていたのか、熱中していたあたしは時間感覚も忘れて熟読しているとマスターが声をかけてくれた。
外を見ると確かに雨は止んでいるけど…何かもう暗くなってない…?
『あの、今何時ですか?』
「もうすぐ19時になるところですよ。熱心に本を読まれていたのでお邪魔するのもどうかと思ったんですが…そろそろ帰られないと親御さんが心配なさるんじゃないかと思いまして」
困ったような表情をしてるマスターの言葉に驚いて、自分の腕時計を確認すると確かに間もなく19時になるところだった。
嘘!?あたしこんな長居しちゃってたの!?
『す、すみません!長居してしまって…』
「いえいえ。気になさらないで下さい」
ペコリと頭を思いきり下げると、マスターは笑って許してくれた。
急いで帰り支度をして会計を済ませる。
『ここの珈琲とても美味しかったです。また来させていただきますね』
帰り際に笑顔で挨拶をすると、またいつでもどうぞ。とマスターも笑顔で返してくれた。
喫茶店を後にして、本の続きを早く読みたかったあたしは急いでマンションまで帰ることにした。
あの喫茶店、本屋さんから近かったし、また続きを買ったらお邪魔させてもらおうと考えながら、当たりな喫茶店に面白い小説と楽しみが2倍になったあたしは軽い足取りでその日は帰路についた。
『マスター、また来ちゃいました』
「お嬢さん、いらっしゃい。いつもの席、空いてるよ。珈琲もいつものでいいかな?」
『はい。お願いします!』
結局、あれから毎日学校帰りに通ってしまっているこの喫茶店。
落ち着いた雰囲気に、美味しい珈琲、静かなBGM。
寛いで本を読むには最適な場所なのだ。
「おや?今日もその本なのかい?」
『昨日の本は読んじゃったので続き買って来たんですよ』
「お嬢さんは本当にその本が好きなんだね。今日もゆっくりしていくといいよ」
毎度長居をしてしまうせいで、マスターとも随分と仲良くなってしまった。
やっぱり此処はあたしの憩の場だな。
なんて思いながら、珈琲を一口含むと、本の表紙を開いて今日も小説の世界に浸ることにした。
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