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歌でも口遊みそうなくらい嬉しくてテンションが上がっていたあたしの頬をポツリと滴が濡らした。


『え?まさか…』


空を見上げると、本屋さんに向かっていた時には確かに広がっていた青空がどんよりと重たい雲へと姿を変えていた。

これは間違いなく雨が降る!
ちょっと、あたしの大事な本が濡れちゃったらどうするんだ!


ダッシュで帰ろうともしたけど、ここからあたしのマンションまではまだまだ距離があるし、次第に落ちてくる雨に本が傷んでしまうのを恐れたあたしはちょうど目の前にあった喫茶店に避難した。

喫茶店に入った頃には、外は既に本降りになっていて、ホントに危機一髪!
本が濡れてないか、不安に思いながら袋を覗いてみるけど、何とか無事だったようで胸を撫で下ろした。

抱き締めてた甲斐があった。
読む前に本が傷むなんて、悲しくて泣けてくるもん。


改めて辺りを見回すと、偶然入ったこの喫茶店はレトロな感じながらも、古びた感じもしない落ち着いた雰囲気のいい場所だった。


「お嬢さん、お一人ですか?」


入り口で立ち止まっていたあたしに、マスターらしき人が声をかけてくれた。
何だか人を安心させるような柔らかい雰囲気を持った不思議な人だ。


『はい。急に雨が降って来ちゃって…雨宿りさせていただいてもいいですか?』

「それは大変でしたね。構いませんよ。お好きな席にどうぞ」


店内を見回すと、ちらほらとお客の姿はあるものの、混雑してる感じでもない。
これならカウンターに座らなくても大丈夫だろうと、隅の席に座って珈琲を注文した。


『あ、美味しい』


一口含んだだけで、心に染み渡るように広がった安心感に、ついポロリと独り言を漏らしてしまった。


「お嬢さんのお口にあったなら良かった。でも、ブラックじゃ飲みにくいんじゃないですか?」

『あ、あたしブラックじゃないと飲めないんですよ。お砂糖で甘くなった珈琲って苦手で…』


きっとこんな中学生は珍しいだろうに、マスターは何も追求せずに、にっこりと微笑んで、ごゆっくりどうぞと席を離れた。

どうせ雨が止むまで動けないんだし、さっき買った小説をここで読ませてもらおうと、小説を取り出し、本の世界に旅立つことにした。


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