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『………』

名前は薄目を開けた。横向きの姿勢で覗く視界は霞がかり、むくんで重くなった瞼を開閉させるも、至高のまどろみを手放したくない体はまたもや意識を沈めたがる。
真っ白な監禁部屋からウェスカーの部屋に過ごす場所が変わっても、彼は基本的に放任主義のため名前の生活スタイルは変わらなかった。

瞳を閉じ、体勢を微調整して再び睡魔に意識を譲る準備を整える。


『………………』

しかし拭えない違和感に名前はすぐに目を開けた。

背後からじんわりと伝わる熱と首筋に感じる息遣い。腰の重みに視線を垂らすとあるはずのない逞しい色白な手が一本見えた。睡魔は消滅、名前は金縛りに掛かったように目を見開き、緊張から呼吸が浅くか細くなる。
背後に密着する存在はより確かなものとなり、自分ではない呼吸に合わせて上下する胸を感じた。残念ながら夢ではないらしい。


『(…!)』

後ろで何かがもそもそと動き出す。腹に圧迫感を感じると後方に体が引き寄せられてより密着してしまった。これ以上ない力で目を瞑る。少し前に杞憂で恐れた悪夢が現実になってしまった。欲しくない温もりに包まれ、小さな震えを起こしながら名前は懸命に狸寝入りを続行した。

全身が攣りそうになりながらどれほど耐えたのだろうか、我慢の限界に近くなった頃、大人しく腹に添えられるだけの役割だった男の手が下方へ動き出した。



「…いいのか?抵抗しなくて」

『っ…!?』

耳元での囁き、同時に指先を立てた掌に太腿を一撫でされた名前は飛び跳ねてベッドから下りようとした。それを逃がさんとする男の腕が容易く彼女の身を絡め取り、拘束し、もがいていたはずが何が起きたかわからないうちに仰向けに返されてしまう。


―――――――カプリッ…!!

『ひっ…!?』

何時ぞやに男の首筋に噛みついてやったように、首の付け根に顔を埋めた彼は歯を立て、噛みつき、食いこませた歯で肌を愛でた。名前は自分に覆い被さる体を退けようと無意味に脚をばたつかせて鼠の断末魔のような悲鳴を上げる。

意地悪な男は必死に閉じようとする彼女の脚の間に腰を割り込ませ、空いている片手で片脚を軽く開脚させると太腿に手置きベッドに押し付ける。

泣いて叫ぶ名前の両手首を拘束するのは片手だけなのに全力で暴れても抜けられない。

ウェスカーは彼女の脚を愛撫しつつワンピースの裾をたくし上げ、下着を身に着けていないそこへ自分の腰を密着させた。
疑似的に性交を思わせる腰つきでねっとりと、緩く下から突き上げられて彼女はどうにかなりそうになる。
嫌と叫ぶはずだった声は先読みしたウェスカーの口付けによって阻まれ、厭らしい腰使いに腰抜けにされて舌に噛みつく力を奪われる。

身を返そうと腰を浮かせばより深く抱かれて男の思うつぼ。もっとも名前に状況を判断する余裕は残っておらず、濁った途切れ途切れの悲鳴を垂れ流して、蛇に絞められる蛙のように足掻き続ける。



――――――プルルッ…!プルルッ…!

「『!』」

名前がもうだめだと思った瞬間、電子音が鳴った。口付けを中断しウェスカーは顔を上げる。離れたデスクの上で音源の通信機が鳴っている。彼はあっけなく拘束を解き、ベッドから下りると機器を取りにデスクへ。
その間名前は大慌てで捲れ上がった服の裾を元に戻した。


「俺だ」

何食わぬ顔で応答し相づちを打つ男の神経が知れない。会話を終えてベッドへ寄ってくる、名前は身構えたが外していたサングラスを取りに来ただけだったらしく、彼女には見向きもせずに部屋を出ていった。

一体いつ、どのタイミングで忍び寄られたのか。頭を抱える。あの電話がなかった今頃どうなっていたのか考えただけでもゾッとする。絶対に自分は対象外だと思っていたのに。襲われないとしていた確信が崩された今、名前はまた一つ逃げ道を失った。


====Bring the Pain====


男は思う。

恥辱に歪んだ顔は醜くも価値ある美しさであった。


全60ページ

All Title By Mindless Self Indulgence
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