Straight To Video | ナノ
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――――――数日前。
あの被験体は今。男はしばらくぶりにある部屋を訪れていた。
ドアが開く。踏み入れば部屋の白さに溶け込みそうな名前はベッドの上で体を起こしている。
『……クリス?』
「!」
気配を感じたのか、こちらに顔を向け少し首を傾けている彼女は確かに「クリス」と名を呼んだ。そして招くように名前を繰り返し呟く。ウェスカーは靴音を鳴らしてベッドに歩み寄る。
「クリス…」
すぐ脇に立っているのにまだクリスと呼ぶ。彼はベッドに手をつき身を屈め名前の顔を覗き込んだ。薄目を開けているので目が合っているようにも見えるが、この距離で無反応ということは寝ぼけているのだろう。
夢の中でしか安らぐ場のない娘に慈悲を。彼は彼女のすっかり痩けてしまった頬を撫でる。名前はそれに応えて甘えてきた。
眠るはずの彼女は顔を持ち上げ徐に動き出し、そしてあたかも見えているかのように男の唇を探り当てて自分の唇を重ねた。表情一つ変えず身を引くこともなくウェスカーは口付けを受け入れる。名前の乾いた舌先が弱々しく押し入ろうと彼の唇を叩いた。崩れそうな彼女を支え、深い潤いを欲する粘膜を迎え入れて濡らすと、まるで蜂蜜を垂らしてコーティングしたような艶と張りを得た舌に生まれ変わる。大胆な味わい方は音が濃さを物語る。
『……あまい』
息継ぎにぽつりとそう言うと、名前はウェスカーから離れてそれきり石像のように動かなくなってしまった。
口元は際立って輝く。
様子見が終わったウェスカーは部屋を去った。
====How I Learned to Stop Giving a Shit & Love====
気まぐれな悪魔が与えた真実より甘い夢。
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