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逃げ出して自分の目で見て事実を知った。
ここは病院ではなく、非人道的な人体実験を行う研究施設だった。
泣き腫らした瞼を重そうに持ち上げて、霞む視界の中で自分を囲む研究員達を恨めしそうに睨む名前は、脚を下ろしてベッドに掛ける。
投与の時は訪れた。最後の検診を終え、何の問題はないと判断されると部屋を移った。
前の部屋と違うのはベッドがないだけ。
監視カメラと壁一枚分の大きな鏡。
昨日見た化け物を思い出した。私もああなってしまうのか。
名前は何もない部屋の中央でへたりと座りこみ鏡に写った自身を見つめた。
「投与開始」
鏡の向こうではウェスカーを含め、研究員達が彼女を見つめる。
天井の四隅から霧状のウイルスが降り注ぎ部屋を満たす。
最期の光景は、一筋の涙が頬を伝った自分の姿。