生徒会


「…失礼します」
件の対面式から数日経ったある日のこと。突然校長室に呼び出されたキドは嫌な予感が頭を埋めていくのに溜息を吐いた。
何の用だ。自分は何もしていない、というより入学して一週間も経っていないのに何かする馬鹿はそうそういないだろう。強いて言えば、あんたらが自分を新入生挨拶なんかに選びやがった所為で、1年9組の教室前が連日大賑わいで多数の教員及び学生に迷惑がかかっているが。
むしろ文句があるのはこちらの方だ。高校はあまり目立たずに静かに過ごしたいと思っていたのに。
返してくれ、俺の穏やかな高校生活。
「1年9組の木戸さんだね」
「はい」
そんなことを考えていたのが祟ったのだろうか。
無慈悲にも校長先生様はキドにこんなことを仰った。

「君を陽炎学園高等部生徒会長に推薦しようと思う。来週の朝会で発表しようと思っているから、それまでに生徒会の候補メンバーを決めて、担任経由でも構わないから私に伝えて欲しい。候補メンバーは君に任せよう」

生徒会長。
高等部の。
来週の朝会。今日は木曜日で朝会は毎週水曜日の朝だから―――猶予は今日を含めて6日間。だが、余裕を持った方が良いだろう。遅くても来週の月曜には担任に伝えた方が良い。

「……恐縮です」

にこにこと人の良さそうな笑顔を浮かべた校長に、もはや脳内ですら文句を言う気にはならなかった。
あぁ、この笑顔が固まっていないだろうか。自然に見えているだろうか。
今初めてカノの能力が欲しいと思った。

「やはり中等部の生徒会長を務めていただけあるね。その姿勢の良さ、大切にするんだよ」
「はい」
「あと、そのやる気に満ちた表情もね」
「はい!」

さようなら、俺の平穏な静かな3年間。
その時、確かに理想の高校生活がガラガラと崩れる音をキドは聞いた。



「生徒会? ありゃー…」
「キド、もう諦めた方が良いっすよ」
陽炎学園生徒会役員の任命システムは他校と大きく異なる。まず、立候補制ではなく校長の指名制。そして、任期は決まっていない。校長が指名した生徒をまず毎週水曜の朝に開かれる朝会で発表する。そしてその日のホームルームの時間で信任・不信任の投票が行われ、信任多数であれば晴れて翌日からその指名された生徒は生徒会長になる、という単純且つ面倒なシステムだ。ちなみに、生徒会長以外の役員候補は会長に委ねられる。その役員も含めて投票が行われるので、過去には会長が決めた候補5人のうち、書記1人以外不信任で外されるというケースもあった。
「……カノ、セト」
「何?」
「何すか?」
「頼みがある」
今になって思えば何を考えてるんだこの学校は。
入学してすぐ、クラスメイトともそんなに打ち解けていない状態で生徒会役員候補を指名しろ?
そんなの、中学時代の知ってる人間しか選べないだろ!!
「セト」
「?」
「副会長を頼みたい。バイトがあるならそっちを優先してくれ、何てったってお前はうちの生活費を担ってる。それからカノは会計兼書記を頼む」
中等部もこの3人で学校を動かしていた。高等部は中等部よりも圧倒的に規模が大きいのでこの3人だけで大丈夫かどうかが心配だが、知らない人間を頼って裏切られるよりは少数精鋭の方が良いんじゃないかというのが正直なところだ。
「良いよ」
「良っすよ!」
「悪いな。ありがとう」

ふと、嫌な考えが頭を過ぎる。
まさか自分だけでなくカノとセトにも生徒会に入らせるための出来レースなんじゃ…
いやいや、そんなことをするはずはないだろう。大体、中等部の事情なんて高等部には関係ないし規模的にも通用しないし―――
「キド?」
「どうしたっすか?」
怪訝そうな顔をする幼馴染2人を尻目に、キドはぶんぶんと首を横に振りながら背中を冷や汗が伝う感触を誤魔化した。




その日の帰りのホームルームが終わった後、担任に役員候補を言ったら「そうか。じゃあちゃんと伝えておく」と安心したように言ったのをキドは見逃さなかった。
…いや、気の所為気の所為。
………の、はずだ。




(何なんだ!!)

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