Growth Phase カノキド



side:Momo

「団長さん?」
先程まで見ていた翡翠の髪が見えなくなった。確か、数秒前までは彼女の持つ包丁が一定のリズムを刻んでいたはずだ。
故意か、暴走か。
体調が悪いようには見えなかったが、任務であるならこんな風に突然消えたりはしない。彼女はそういう人だ。人一倍心配するくせに、こちらには心配させてくれない。
恐らく、後者だろう。
「…カノさんに言わなきゃ」
「僕?」
「そうそうその声―――ってカノさん!!」
「どうかした? あれ、キドさっきまでそこで料理してなかったっけ」
猫目が誰もいないキッチンを眺める。それなんですが、とここ数分間の経緯を話したところで、カノが突然虚空を掴んだ。
「なーに隠れんぼしてんの、キド?」
少女は目の前の彼女が青い顔をしているのを見て、やっぱりこの人に話して正解だったな、と溜息を吐いた。


side:Kano

何も言わずに自身の部屋に連行されてくれたところを見る限り、具合は相当悪いらしい。掴んだ手首が心なしか細くなっていて、カノは眉を顰めた。
「また無理したでしょ」
「…してない」
「してなかったらこんな風にはならないよ。体重減ったんじゃないの? ただでさえ病的に軽いのに」
「風邪を引いただけだ」
あぁそう、と呟き、今夜から明朝にかけてのキドの任務のことを思い出す。
「…ねぇキド」
返事はない。
「とうッ」
「!?」
勢いよく抱きつき、ついでにそのままベッドにダイブ。
「おまッ、」
「はーい病人は静かにねー。叫んだら頭痛くなるよ」
「おい馬鹿野放せ」
「やだ。今日は任務はセトに代わってもらうからね。キドはここで僕と寝ること」
「断る。第一何でお前と寝なきゃならないんだ」
「決まってんじゃん、監視がいなかったらキド能力駆使して任務に行くでしょ?」
お見通しだよ、とにっこり笑ってやれば、反撃する体力もないらしい、諦めたのかキドはこの上なく深い溜息を吐いて大人しく布団に潜った。
「あ、そう言えば着替えなくていいの?」
「構わない…面倒、だ…」
重くなる瞼に逆らうものの全く意味をなさず、無駄な抵抗の所為で余計に薄れやすくなったキドの意識が遠のいたのを見届けて、一言。
「何でキドはいつも寄りかかってくれないかなぁ」
まぁ大体理由は分かるけど。
当たり前だが返事はなく、独り言は虚しく消えた。


side:Kido
牛乳を大量に飲んだ、わけではない。きっと睡眠時間だって、同年代のちゃんと家のある者達に比べれば随分不足している方だろう。それが顕著に現れているのがカノだ。
が、しかし。3人でずっと一緒にいたはずなのに何故こうも差が現れたのか。セトは健康的に成長した。自分は背ばかり高くなり、体重はありえないくらい軽いらしい。そして、身長に対して適正体重よりは軽いかもしれないが、自分ほどではない、けれど自分より背の低いカノ。
何でこうなった。いや別に構わないといえば構わないが何でこうなった。
「…おかげで」
素直に寄りかかれやしない。
男だ女だ、その前によく分からない自分のプライドは、自分よりも背の低い者に寄りかかることを良しとしなかった。
意識の覚醒が身体の覚醒よりも早かったらしい。瞼は閉じたままなのにこうやって長々と考え事ができる程度には脳が働いている。
後ろから回された腕はがっちりと身体をホールドしていて、逃れようがなかった。
力だけはちゃんと成長したらしい。
「…はぁ」
溜息を吐き、瞼をこじ開ける。
「おいカノ、朝だ起きろ」
ぺしぺしと腕を叩くが反応は皆無。意識がないなら抜けられるだろうかと少し身体を離してみたらすぐに引き戻された。
こいつまさか起きてるんじゃないか?
欺いて笑ってるんじゃ…
「放せ」
冷え切った声とともに先程より強めに腕を叩く。反応はない。
「……」
もぞもぞと身体を反転させてカノの方を見る。
目を凝らせばむこうがこちらを見つけられるように、見つめていればこちらも向こうの嘘を見抜けるようになっていた。
それがいつからかは分からない。だが大した問題でもないだろう、そんな野暮なことを考えるのはとうの昔にやめた。
じぃっと寝顔を見つめる。
大きな猫目は閉ざされて、長めの睫毛が間近に見えた。
「…本気で寝てるな」
どうもカノが起きるまでこの腕から抜けるのは不可能らしい。さっさと諦めてもう一度寝ようか。
「…いや待て、朝食はどうする」
キッチンに立ってまともに料理できるのはカノ、セト、自分の3人だけだ。セトは自分の代わりに任務に行っただろうから、恐らく今は寝ているだろう。そして残りの2人はこの状態。
「おい起きろ!!」
マリーが飢える!!
拳を握り締め脇腹に叩き込むと、手荒い起こし方に流石に目が覚めたらしい。「ごふッ」と言った後開いた猫目は涙目だった。
「…キドさん痛いです…」
「おはよう馬鹿野」
「起きて早々虐めないで…おはよう…」
「マリーが飢えるからさっさと放せ」
「はーい…ってちょっと待った」
離れかけた腕がまた背中に回る。
「何だ」
イラつきを隠そうともせずそう言うと、カノは全くお構いなしにこつんと額を合わせてきた。
「んー…大丈夫かな? 一応熱計っとこうか」
そういえば熱があったんだった。
「キド忘れてたでしょ」
何も言えない。
「…五月蝿い」
少し居た堪れなくなってふいとそっぽを向く。
「拗ねないでよ」と笑い交じりに言ってきた声は無視して、言われるがまま差し出された体温計を脇に挟んだ。


side:Kano
キドの熱は一晩で治るものだったらしい。風邪と言うよりは日頃の疲れが出たと言ったほうが正しい気がする。
「今日は何も予定なかったよね?」
「ああ」
案の定腹を空かせて若干不機嫌になっていたマリーを宥める為、キドとカノは朝食の準備に追われていた。
ダイニングの用意が終わったところでふう、と一息つく。ちらりと横目でキッチンを見ると、手際よく料理をしている姿。
栄養バランスを考えた上で彩りもきれいな料理を作るのは正直難しい。それが毎日ともなると尚更だ。
そう、栄養バランスはしっかりしている。そのくせに、伸びない背。
「…成長期が遅いだけだよ、うん」
きっといつか抜かせるよ。遠い目を見られないよう、少しだけ能力を発動させた。


side:Kido
「何で抜かせないかなぁ」
無事に朝食も終わり、片付けを終えてマリーの入れた紅茶を飲んでいる頃。
ソファの隣に座って雑誌を読んでいたらカノがおもむろにそんなことを呟いた。
「…原因はひとつじゃないか?」
「何? キド知ってるの?」
若干期待がこもった目に頷いて口を開く。
「成長期の頃の睡眠不足」
端的に言っただけだが、何故かカノは打ちひしがれていた。
「俺はお前に比べれば寝ていたからな。セトはもっと寝ていたが」
「あー…やっぱソレ?」
「それぐらいしかないだろう。あとは体質とか遺伝とかのどうしようもない原因が考えられるが」
「今からでも遅くないなかなぁ…」
「さぁな」
早く抜いてくれれば良い。
そうしたら、ちゃんとお前に寄りかかるから。
口には出さずに心の中だけで言い、ふと笑みを零してキドはイヤホンを耳に差し込んだ。











Growth Phase=成長期
何が書きたかったのか迷子になった…
身長が足りない所為で寄っかかれないキドさんと寄っかかってもらえないカノを書きたかった気がする←

<< >>
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -