対面式その後 |
中等部からそのまま高等部に上がるだけのことだと思っていたが、どうも学校側はそう簡単なものには考えていなかったらしい。おかげでわざわざご丁寧に「対面式」なるものを開いて、先輩方に顔見せをさせられた。 まぁ生徒の7割は高等部からこの学園に入ってきているから、そんな式があっても良いかもしれない。 が、何が問題かというと。 「……もう嫌だ」 「入学してまだ1週間も経ってないのにそういうこと言わないの、キド!」 「マリーの気持ちが分からんでもない今ならきっと理解してやれる…」 「大丈夫っすよ! 人の噂も何とやらっす!」 その「対面式」では新入生挨拶とやらがあり、高等部入試で主席または中等部を主席で卒業した者に役目が回ってくる。 入試の主席は非常に個性的で、新入生挨拶を任せるには少しばかり不安があったそうだ。そして中等部入学以来ずっと主席を守り続けてきたことに加え、中等部生徒会長を務め、生徒からも教員からも全幅の信頼を寄せられていたキドにその白羽の矢が立った。 「…『白羽の矢が立つ』の意味を調べてみろ」 沈んだ声でそう言うキドに従い、セトが電子辞書で検索すると出てきた言葉に苦笑した。 「何何、何て書いてあんの?」 「あー…まさにこれっすね、今回は」 白羽の矢が立つ 多くの人の中で、これぞと思う人が特に選び定められる。また、犠牲者になる。by広辞苑 「……何も言えないや」 挨拶自体は苦ではなかった。中等部の頃散々やってきたキャリアは伊達ではない。 が、諸事情により男子制服を着ている身としては、できれば目立つことは避けたかった。理由を他人に話す気はないので問い詰められると面倒だからである。 持ち前の容姿が男っぽかったので、体育ではどうしてもばれるが、それまでは男子の1人という認識で良いやと思っていたのがまずかったのだろうか。 昔から目の能力の所為で他人に「視られない」日々を過ごしてきた。それはあまりに寂しかったが、皮肉なことに酷く居心地が良いものでもあった。自分ひとりでのびのびとしていられる。この場合のひとりは「独り」だが。 だからキドは注目されるのが一番嫌いだった。生徒会長も初めは正直嫌で仕方なかったが、仕事をしていくうちに段々と楽しさに目覚め、いつしか生徒全員の前で話すことも苦痛ではなくなった。 が。 「それとこれとは話が別だ…ッ!!」 何なんだあの教室のドアの前の人だかり。全員こっち見てるし。 「あれが“つぼみ”ちゃん?」「名前聞かなかったら完全男子だろアレ」「ってかイケメンじゃね?」「ちょ、男子より格好良いし」 聞こえる名前は全て自分のもの。たまに教師まで来てチラ見していく。 「もう止めてくれ…!!」 こんなはずじゃなかった。高校は周りが許す限り気配を消して生きていこうと思っていたのに。 「主席か!? 主席がいけなかったのか!?」 「キド落ち着いて。キドが主席じゃなかったら僕だったよ? それでも良かった?」 「……」 負けず嫌いは意思とは関係なしに働くようだ。 「………それは…嫌だな」 「カノに負けるとか…」とぼそりと呟くと、カノはどこから出したのか(むしろどこに売ってたのかが知りたい)白いハンカチを咥えて「酷い!!」と嘘泣きし始めた。 「キドそんなに僕に勝ちたいの!?」 「成績はおろか身長すら負けてる奴が言えたセリフか?」 「すいません何でもありませんでした」 「カノ立つ瀬ないっすねー」 「セトそれ地味に傷つくから笑顔で言うのやめて!?」 この学校は出席番号が男女混合だ。入学直後はクラスメイトに慣れるため席順は出席番号だが、カノの後ろにキドが座り、運良くキドの隣にセトが座るという何とも都合の良い席順になっている。 「にしても良かったよね、“狩野さん”とか“木田さん”とかいなくて」 「…まぁな」 溜息交じりに言う。実際、カノやセトが近くにいなければ今頃質問攻めにあっていたことだろう。 さり気なくそれを回避させてくれていることに少しだけ感謝した。 |
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