Cry, Lie and Hide カノキド


ねぇ
お願いだよ

「このままじゃわたし消えちゃう」

僕ね

「助けて」

君の哀しい顔は見たくないんだ

「助けて修哉ぁ…」

君の涙は見たくない

だから

「大丈夫だよ、つぼみ」
「ぼくがいるでしょ?」
「ぼくなら絶対につぼみを見つけられる」
「つぼみは消えたりしないよ」
「ぼくが絶対に消させない」

僕はこうして嘘を吐いた

「約束しよう」

保証なんてないんだ

「つぼみがどこにいても、どれだけの人が見えなくても、ぼくが絶対に見つける」

本当は怖くて仕方ないよ

「…絶対?」

いつか君を見つけられなくなる時が来るんじゃないかって

「うん。絶対」

でも君が泣き止んでくれるなら

「……ありがとう、修哉」

君が嬉しそうに笑うなら

「指切りしよう」

僕は嘘を吐き続けるよ

「うん」

そして君を必死になって探すよ

「指切りげんまん、嘘吐いたら針千本のーます、指切った」

一度でも僕が君を見つけられなかったら

「これで大丈夫だよ」

君は

「うん、修哉のこと信じてる」

きっと泣いて、僕の前から姿を消してしまうだろうから



ねぇ
お願いだよ

どうか

泣かないで、キド。










なぁ
分かってるか?

「大丈夫だよ」

俺は

「心配性だなぁ」

お前の繕った顔は見たくない

「僕、そんなに頼りない?」

お前の笑顔が嫌いだ

けれど

「ああ」
「お前俺より小さいしな」
「しかも細いし」
「よくそんな台詞が吐けたもんだ」
「まさか頼りないと思ってなかったわけじゃないだろうな」

俺はこうして本心を隠した

「自惚れるなよ」

お前の笑顔が他人の為であることは知っている

「たまに怪我してるのを欺いてることだって全部お見通しだからな」

本当に言いたいのはこんなことじゃない

「えー? 本当に?」

こんな冷たい言葉じゃない

「俺がそんな不利益なことで嘘を吐くとでも?」

でもお前がおどけて笑うから

「そうだねぇ…そんな嘘は言わないね」

痛みも全て繕うから

「当たり前だ」

俺は隠し続けよう

「じゃあ今度からちょっとだけ言おうかな」

そしてお前の茶番に付き合おう

「とか言っておきながら黙ってるんだろ」

一度でも俺が本音を言ってしまえば

「どうかなぁ、言うかもよ?」

お前は

「言ってろ」

きっと笑って、俺に偽りしか見せなくなるだろうから



なぁ
分かってるか?

もう

泣いてもいいんだ、カノ。











かつて泣き虫だった少女は泣かなくなった。けれど同じくらい、笑わなくなった。
嘘吐きの少年は未だに約束を違えてはいない。それでもいつか来るかもしれない違える時に怯えている。
少年は少女の涙を見なくなったことに安堵は感じなかった。逆に感じたのは、焦燥。
「キド、笑わなくなったよね」
昔よく泣いた少女は同じくらいよく笑った。表情の変化が乏しくなっていったのはいつからだったかもう思い出せない。
けれど、少年が望んだのは無表情ではなかった。
「お前は昔からへらへら笑ってたな」
進歩も後退もない。
辛辣な言葉にそんなこと言わないでよとおどけて笑う。
口角を上げた時一瞬、少女の表情が歪んだ気がした。
「…キド?」
「何だ?」
「…いや、今…」
いつも通りの表情に戻っている。
「……見間違い。何でもないや」
「?そうか」
訝しげな顔をするけれど追及はしてこない。それが少年の嘘を救っていることを少女は知らないだろうと少年は思っていた。
嘘は救っても、少年は救われない。
むしろ積み重なる嘘に押しつぶされてしまいそうで、何かをきっかけに自分が砕けてなくなってしまいそうで。
そんな自分の本当の心のことなど、知るはずもないと思っていた。知らなくて良い。こんな嘘吐きの醜い内心なんて。
でも知っていてほしいと思う自分も片隅にはいて。
つくづく面倒な性格をしていると隣りの少女に気づかれないよう溜息を吐いた、つもりだった。

「なぁ、カノ」

凛とした声。少女と呼ぶにはハスキーな、それでも男には少し高めのアルト。
「何?キド」
貼り付いて剥がれなくなった笑顔を向ける。

「俺は、ちゃんと知ってる」

向けられた真っ直ぐな目は、それでいて何かを滲ませていた。

「…キド…?」

「俺は、お前が思ってるよりも分かってる」

くしゃりと綺麗な顔を歪ませて必死にその何かを耐えようとしている。

「お前の嘘も本心も分かってるんだ」

一粒、つぅっと白い頬を伝ってソファに染み込んだ。

「もういい」

何、言ってるの、キド。

その言葉すら出てこない。
ただ呆然と少女を見つめるだけ。
あぁ、この子のこの表情は久しぶりかな。

笑わせ、なきゃ。

「ッ、」

何か言わなきゃ。
そうだ、せめて笑顔を。
笑顔を見せれば、きっといつも通りに冷たくあしらってくれる。
笑わなきゃ。

笑わなきゃ。

「隠したいなら俺が隠す」

笑わなきゃ。

「だから、もう」

どうして動いてくれないの、どうして固まったままなの、いつもは不必要なくらい偽れるくせに、貼り付いて剥がそうとしたって無駄なくらい笑ってるくせに!!!



「泣いていいよ、カノ」



意味分からないよ。
泣いてるのはキドでしょ?
僕は、君が泣くなら、

わらわなきゃ、いけない、でしょ?



「…昔は僕の笑顔見たら、笑ってくれたくせに」
「ああ」
「今じゃ僕の笑顔見て痛そうな顔してる」
「…ああ」

「泣いたら、もっと痛そうな顔するんじゃないの?」

ゆるゆると首を横に振って、少女は笑った。

「その時は俺が笑ってお前を慰めるよ」

だからもう、我慢しなくていいんだ。



「………終わるまで、隠しててよ」



嘘が剥がれた少年は少女に縋り付いて、大声を上げて、泣き叫んだ。
少女はずっと少年の背中を優しく撫でていた。

二人に気づいた者は、誰もいなかった。






Cry, Lie and Hide

泣いたら嘘も隠し事も全部流れた
目も頭も喉も痛い
泣くのって疲れるねと君に言ったら
でも泣いた後はすっきりするだろうと君は笑った
あぁやっと
君の笑顔が見れたね
つられて僕も笑った
二人で一緒に、ちゃんと笑った








ちょっと補足でもないですが。
Cry:カノはキドに「泣かないで」って思ってるけど、キドはカノに「泣いても良いよ」って思ってるという対比
Lie and Hide:カノは欺いていた、キドは隠していた。でも結局隠さないで曝け出したら嘘が剥がれた

というのを書きたかった。書けてるかは某神の味噌汁←

<< >>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -