Cold カノキド





熱を出す時、キドは能力が暴走しセトは持ち前の大雑把に磨きがかかり、最後の一人は普段考えられない態度をとる。
3人が3人共何かしらサインを出すという妙な特徴があるが、そうでもしなければ互いに体調不良を訴えることはないので、理にかなっていると言えばそうなのかもしれない。
さてとある春の陽気がぽかぽかと心地良いある日のことだった。
「キドー」
「昼飯ならあと10分でできるぞ」
「んー…何作ってるの」
「チャーハンと中華スープ」
「あ、僕の好物」
何かおかしい。いや、何かではなく大分おかしい。
取り敢えず何だこの体勢。
「…おいカノ」
「なぁにー?」
「何でお前後ろから抱きついてるんだ」
「何となく」
間延びした口調、何となく殴れない雰囲気とーーー
「……頭を擦り付けんのやめろ」
「んー」
抱きついて肩口に頭を擦り付ける、まるで猫が甘えるような仕草。
これは十中八九アレなのだが、早い段階で指摘すると何故か拗ねて外に行くので、動けない状態になるまで待つしかない。野垂れ死なれると困る。
中華スープの味見をしながらキドは溜息を吐いた。


昼食をとっている間は普通だった。まだ能力が使える程度には元気らしい。
言動の端々が若干おかしかったが、セトと自分以外は気付かない程度の齟齬。
問題は食後だ。片付けが終わって一息ついた頃、カノの症状が悪化したらしい。マリーが自室に戻ってくれて助かった。
「キドーぉ」
「……」
こんな状態、誰に見せられようか。
「…おいカノ」
「んー?」
「重い」
「へへー」
巫山戯んな何がへへーだ馬鹿野!! と殴れるのならどれだけ楽だったか。
ソファに座ったのが悪かったのか。いやでもここ定位置だし。
かいつまんで言うと、一見ソファでカノに押し倒されている状態だ。本人はじゃれているつもりらしいが。
カノがこうなる原因は一つしかない。そして早くそれが悪化しないかなと考えているのは仕方がないことだ、でなければこの状態がずっと続くことになる。
しばらく放っておいて何とか雑誌を読んでいると、ぐったりと全体重をこちらに預けて動かなくなった。
「…セト」
「何すか?」
「運んでくれないか?」
「良いっすよー」
ひょいっと肩に担がれて運ばれる額には汗が浮かんでいて、恐らくは大分上がっているのだろう、表情は辛そうだった。
「…ったく」
何でこう素直に辛いと言えないんだか。
自分のことは棚に上げさせてもらうとしよう。袖を掴む手は外さずに、セトが運ぶのについて行きカノの寝室に入った。


「…キド…?」
掠れた声が聞こえたので顔を上げる。
「起きたか」
体温計を渡すと脇に挟んでじっと数字を見ていた。小さい頃と変わらない行動に思わず吹き出す。
「?」
「いや…お前、昔もそうやって体温見てたなと」
「そうだっけ? あ、鳴った」
電子音が鳴ると同時に差し出された体温計。一の位は9。
「…水分摂るか?」
「あー…うん、欲しい」
ペットボトルを取りに行こうと腰を上げかけた、その時だった。

「待って」

腕を掴む力は酷く弱々しい。
「カノ?」
「行かないで」
「は? お前今水分欲しいって、」

「行かないで」

「……何でそんな泣きそうな顔してるんだ?」
熱の所為かもしれない。けれど眉根を寄せて目を潤ませるこの表情は明らかに泣く直前。
「ペットボトルを取って来るだけだ。すぐに戻って来るから」
「嫌だ」
「30秒もかからないぞ?」
「だって、」

今キドが消えちゃったら僕は探しに行けない。

「傍にいてよ」
ここにいてよ。

君がいなくなっちゃったら、僕はどう生きて行けば良いか分からないよ。

「ひとりにしないで」

寂しいよ。

熱が出るとカノは素直になる。ついでに、普段いらないところにまで気を張っているのが災いしてか、甘えたになる。
こんな時にしか聞けない本音。
「…分かったよ」
それを無碍にできるほど非情じゃない。
「ここにいるから」
「僕が寝ても傍にいてくれる?」
「ああ。何だったら手でも握ってろ」
「…ありがとう」
ふにゃ、と笑う顔は幼い頃のもので。
昔返りというやつだろうか。
しかし熱を出すと毎回これなので若干心臓に悪い。ついつい甘やかしてしまうのだ。病人だからという理由で何とか自分を納得させているが。
「って、うわッ!」
差し出した手を掴んだと思ったら思いきり引っ張られて、バランスを崩しそのままベッドへ。
「一緒に寝ようキドー」
「んなッ、はあ!? お前仮にも病人だからな!? 俺にうつして自分は治るつもりか!!」
「何か寒い…」
「人を湯たんぽ代わりにするな馬鹿!!」
「あー…あったかい…」
「…もう好きにしろ…」
無駄な抵抗も疲れてきた。しっかりキドを抱き締めると、カノは満足そうに目を閉じた。
「……」
密着した身体は熱い。そういえば結局こいつ水分取らなかったな、後で飲ませよう。段々落ちて行く瞼には逆らわずに、そんなことを考えてキドは眠りに就いた。


「…あのー、セトさん」
「何すか?」
「カノさんと団長さんって一体…」
「あはは。結構誤解されがちっすけど、“家族”っすよ」
「付き合ってたりとかじゃないんですか?」
「そうっすね」

ま、片方はその気がないわけじゃないっすけど。

音には出さずに呟き、水の入ったペットボトルと冷え●タの箱をベッド脇のデスクに置いて、セトはくすりと笑みを零した。




Cold
今日ぐらいは甘やかしてやるよ

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