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目に見えた光景だとか、言われた言葉だとか、自分でした行動だとかを理解するのに時間がかかる、といったことが日常生活の中で起きることは少ない。が、ないわけでもない。
だから俺はまだ理解してないんだそうだ混乱してるからあんな幻覚―――
「幻覚じゃないよ残念だったねエリオット」
隣にいる従者に僅かな希望が打ち砕かれた。
「希望って・・・大体そんなに大事じゃないでしょ」
「いや大事だ『希望』なんて単語が出てくる程度には大事だ」
まず人の心を読むんじゃない。
えー。

「幻覚じゃなくて何がどうなったらギルバートが9歳になるんだ!!!」

叫んだら目の前の小さな身体がビクッとはねた。
「あ・・・あの、すみません・・・」
「あぁもうエリオットが威嚇するから泣きそうだよ?お義兄さん」
「俺の所為か!?俺の所為なのか!?」
「ごッごめんなさいッ!」
「泣きそうなのは少なくとも君の所為だね。大丈夫大丈夫、ほら泣き止んで」
ひょいっとリーオがギルバートを抱える。目にいっぱいの涙を溜めたまま、それでも頑張って零れないようにする様はいくらエリオットと言えども庇護欲を掻き立てられ―――
「って違――――――う!!!」
頭を抱えてひたすら平静を取り戻そうとする主人の傍ら、リーオはよしよしと小さなギルバートをあやしていた。
「ごめんね、うちの主人短気でさぁ。眉間のシワ消えそうにないけど悪い人じゃないから許してあげてね」
「酷い言いようだな」
「ホントのことでしょ」
何だろう。言い返すのも疲れた。
「ごめんなさい・・・」
「君は何も悪くないよ?安心して」
「・・・ホント、ですか」
「うん。僕嘘は吐かないから。大丈夫だよ」
「・・・ありがとうございます」
ふわりと初めて笑った。
少女のようなあどけない笑顔にエリオットもリーオも釘付けになって―――

直後、突然響いた銃声で我に返った。

「エリオット!!リーオ!!無事か!?」
声は先程まで自分たちの目の前にいた少年が成長した『今』のもの。
けれどそちらを見ることは出来ず、2人は呆然と砂と化した小さなギルバート『だった』ものを眺めていた。
「2人とも!!返事をしろ!!」
険しい声にようやくギルバートの方を向く。
「ギル、バート・・・」
「お義兄さん・・・」
微かに返事をした2人を見て安心したように身体から力を抜くギルバート。

「良かった・・・」

そう言って笑った顔は、先程少年が浮かべたものとよく似ていた。



「最近パンドラで妙なチェインの噂を聞いたんだ」
標的のよく知る人物の姿をとって、油断させて喰らう。
「契約者がナイトレイに恨みがあることが分かって、心配になって戻ってきたんだが」
当たりだったな、とコーヒーを入れながら話す義兄をぼうっと見つめる。

らしくもない、手が震えてるなんて。

何が怖かった?チェインか?

それとも、チェインといえど過去の自分の姿をした存在を簡単に殺めたこの男か?

「・・・エリオット?」
自分が何をしてるかなんて一々理解しなくても分かってる。
でも、理解したくなくて目を瞑った。

義兄の背中に埋めた顔と、後ろから回した腕はそのままにして。


“理解”

(全部のことを理解してしまったらきっとつまらないんだろうなとか)
(残った恐怖心とかを、言い訳にして)
(抱きしめた身体は温かくて、安心した)
 


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