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GF11月号ネタバレ注意!














本当に良いですか?















「包丁の使い方を教えてくれ」

アリスがおもむろにそう言ってきたのは今日の朝のことだった。レインズワースの料理人が作った朝食を食べ、コーヒーやら紅茶やらを飲んで一息ついている時だ。
ギルバートが隻腕になってから、もちろん料理ができるはずもなく、かと言え出来合いの物を食べ続けるわけにもいかないので、それならと申し出てくれたシャロン―――もとい、レインズワースの屋敷で世話になっている。
さて話を戻すと、紅茶の水面を何やら物憂げな目で眺めていたアリスは、何を決心したのかきっと顔を上げてギルバートに冒頭のセリフを言った。
「…包丁って…何でだ?」
「何でも良いだろう、とにかく教えてくれ」
と、ここで違和感に気づく。
普段のアリスなら、「教えてくれ」ではなく「教えろ」と言うはずだ。
どういう心境の変化だろう。
「…じゃあ、今日の晩に教えてやる」
「本当か!?」
ぱっと明るい笑顔を浮かべたアリスに、今度こそわけがわからないとギルバートは疑問符を浮かべたのだった。







キッチンに立つのはいつ以来だろう。本当に久しぶりだ。謎の感慨に耽っていると、アリスが可愛らしい薄ピンクのフリルのついたエプロンをつけて入ってきた。
「…何だその目は」
「…いや」
「これはシャロッ、…お姉さまが直々に選んでくださったのを無下に断るわけにもいかず苦渋の選択でだな」
「……そうか」
そんな言葉遣いどこで覚えたんだ、というかシャロン、お前いつもバカウサギとどんなやりとりをしているんだ。
色々突っ込みたかったがこらえることにした。恐らく、一番突っ込みたいのは着ている本人だろうから。
「じゃあ始めるぞ。まず手をよく洗え」
石鹸を使って丁寧に洗わせる。何にでも興味を示すアリスは、きっと今日もたくさんのものを触ってきたに違いない。
タオルでしっかり水滴を取らせるのも忘れない。何せ初心者だ、手が滑ったりしたら大変なことになる。
まな板の上に2本置いておいた包丁の1本を持ち、アリスにもう1本を握らせた。
「まず持ち方からだ。人差し指を真っ直ぐ前に出すようにして…」
初め人を刺しそうな持ち方をしていたアリスだったが、飲み込みは早いらしい、すぐに正確な持ち方に慣れた。
「包丁を持たない方の手は猫の手みたいに丸める。関節に包丁の面が当たれば指を切らずに済むからな」
「成程!それでお前はいつもこうやっていたんだな!」
ずっと不思議だったんだ、と言われて目を丸くする。
確かにキッチンに入り浸ってはつまみ食いをしていたが、そんな細かいところまで見ていたとは知らなかった。
「…見てたなら話は早いな。じゃあここに人参があるから切ってみるか?」
「や、やってみる」
いざ切るとなると緊張するのだろうか。いやちょっと待て、鎌を振り回して散々色々大破させたくせに包丁は緊張するのか。おかしいだろそれ。
「猫の手猫の手…人差し指は背に載せて…」
ぶつぶつ唱えながらゆっくり切る姿がどうも滑稽で、吹き出しそうになるのを奥歯を噛み締めて耐えているギルバートだった。







その後、皮のむき方や簡単な切り方を教え、人参、じゃがいも、タマネギを切っているところでアリスが今日の料理に気がついた。
「今日はシチューかカレーだな!」
「正解だ。冷えてきたからな、今日はシチューにする」

「…色んなシチューを食べてきたがな、私はお前の味が一番好きだ」

ふと見せた大人びた、切なそうな笑み。
「…バカウサギ?」
カタリと握っていた包丁を置き、視線をある場所へ向ける。
「…?」
追って目に入ったそれは、
「…あ」

もうない左腕。

「……お前が隻腕になったのを見て、私は泣きそうになったんだ」

オズを守るためにそうしたのだと、オズを傷つけたその腕を断罪したのだと聞いたけれど。

「お前の料理、もう食べられないんだと思ってッ…」

エプロンの裾を握りしめてぽろぽろと涙を零す。
その小さな頭を、好きだと言われた自分の大きな手で優しく撫でた。
声を上げずにしゃくり上げるアリスが泣き止むまで、ギルバートはずっとアリスの頭を撫でていた。






ぐすりと鼻を鳴らして真っ赤な、けれどいつも通りの強い光をアリスはこちらに向けた。
「だから決めた。お前が包丁を持てないなら、私が代わりに切る。お前はオズには絶対やらせないからな」
オズの方が器用だと思うが、と小さく拗ねたような呟きにふはと笑う。
「笑うな!今に見てろ、お前よりも上手くなってやるからな!!」
「やれるもんならやってみろ」
「うぬぅワカメなんぞには負けん!!」
「ワカメ言うなバカウサギ!!」
「バカウサギ言うなヘタレワカメ!!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながらも、ギルバートの右手は具材の入った鍋に手際よく調味料を入れていた。








「見ろオズ!この野菜は私が切ったんだぞ!」
「そうなの?すごい綺麗に切れてる!」
「切るだけって…しかもシチューじゃないですカ」
「ブレイク…?」
「すみませんでしたすごーく美しく切れてますヨ頑張りましたネアリス君私感動しちゃってもう」
「ええ本当に。お料理に目覚めましたの?」
「うんうん、それは知りたい!さっき何で料理始めようと思ったの?」
アリスはちらりとギルバートを見た。ギルバートも同じようにアリスを見る。
「まず訂正しておくが、私が始めたのは料理ではなく食材を切ることだ」
疑問符を浮かべた3人ににっと満面の笑みを浮かべ、もう一言。

「それと、始めた理由は秘密だ!」







Because
片手で味は付けられるけれど
切るのは両手じゃないと難しい
でも一番好きなその味を今も食べたいんだ
なら、私が頑張れば良いだろう?










もう親子で良いと思うこの2人。勿論母と娘。
アリスはギルの味付けが一番好きとかだったら美味しい←
 


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