20/25 これで何人目の命を屠ったのだろうか。 もう疲れた、もう嫌だ、もう止めたい。 そう思っても、目的の為に手段は選べない。 それでも心は少しずつ病んでいった。 けれどここで耐えなければ、きっともう二度とあのひとには会えない。 逆説、逆説、逆説、逆説。 繰り返して、壊れていく。 会いたい。もう一度、名前を呼んで欲しい。 もう殺したくない。これ以上罪を重ね続けるのにはもう、疲れた。 ならば俺はどうしたら良い? にゃお、と戸口に立つギルバートの足に擦り寄ってきた一匹の猫。 普通なら叫んでいるか、走って逃げるか。 それができなかったのは、 声すらも出なかったのは、 その猫が、あのひとと同じ色をしていたから。 金に近い薄茶に黄を足したような色の毛に、美しい翡翠の目。 『ギルバート』 名を、呼ばれた気がした。 少し汚れていたその猫を家に入れて、まず洗ってやった。猫は水が嫌いだと言うが、その猫は大人しく水を浴びていた。 乾かすとさらに金が輝きを増した。まるで、あのひとの髪のように。 翡翠は優しくギルバートを眺めていた。 恐る恐る触れる。 温かい、身体。 抱え上げてその柔らかい毛に顔を埋める。 吸い込むと、石鹸の匂いと、 あのひとが纏っていた、太陽の香りがした。 姿を消したり、また現れたり。気紛れに、けれどいつも猫はギルバートの傍にいた。 悪戯をして困らせることも、喉を鳴らして甘えることもあった。 目の光はいつも強かった。 壊れてバラバラになった心が、気がつけばパズルのピースを嵌めるように、また一つになった。 ある日猫が一日現れなかった。 いつも、少なくとも一日に一度は姿を見せてくれていたのに。 翌日、ギルバートは待ち続けたあのひとと再会する。 “野良猫” (壊れた心をかき集めてくれた) (もしかしたら彼だったのかもしれないけれど) (真相を知るのは、消えた野良猫だけ) BGM:Pieces (Red) ← → |