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これで何人目の命を屠ったのだろうか。
もう疲れた、もう嫌だ、もう止めたい。
そう思っても、目的の為に手段は選べない。

それでも心は少しずつ病んでいった。

けれどここで耐えなければ、きっともう二度とあのひとには会えない。

逆説、逆説、逆説、逆説。
繰り返して、壊れていく。

会いたい。もう一度、名前を呼んで欲しい。

もう殺したくない。これ以上罪を重ね続けるのにはもう、疲れた。


ならば俺はどうしたら良い?


にゃお、と戸口に立つギルバートの足に擦り寄ってきた一匹の猫。
普通なら叫んでいるか、走って逃げるか。
それができなかったのは、
声すらも出なかったのは、

その猫が、あのひとと同じ色をしていたから。

金に近い薄茶に黄を足したような色の毛に、美しい翡翠の目。

『ギルバート』

名を、呼ばれた気がした。



少し汚れていたその猫を家に入れて、まず洗ってやった。猫は水が嫌いだと言うが、その猫は大人しく水を浴びていた。
乾かすとさらに金が輝きを増した。まるで、あのひとの髪のように。
翡翠は優しくギルバートを眺めていた。
恐る恐る触れる。
温かい、身体。

抱え上げてその柔らかい毛に顔を埋める。
吸い込むと、石鹸の匂いと、

あのひとが纏っていた、太陽の香りがした。

姿を消したり、また現れたり。気紛れに、けれどいつも猫はギルバートの傍にいた。
悪戯をして困らせることも、喉を鳴らして甘えることもあった。
目の光はいつも強かった。

壊れてバラバラになった心が、気がつけばパズルのピースを嵌めるように、また一つになった。



ある日猫が一日現れなかった。
いつも、少なくとも一日に一度は姿を見せてくれていたのに。

翌日、ギルバートは待ち続けたあのひとと再会する。


“野良猫”

(壊れた心をかき集めてくれた)
(もしかしたら彼だったのかもしれないけれど)
(真相を知るのは、消えた野良猫だけ)






BGM:Pieces (Red)
 


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