9/25 また彼は傘を持たずに佇んでいた。 何かを洗い流すかのように彼は雨に濡れようとする。 そんなことをしたって汚れた手は綺麗にならないし、染み付いた血の香りは消せない。 後悔すらも、流せない。 分かっていても彼は雨に当たるのだ。 ただぼぅっと佇むのだ。 求める姿を雨に映して。 頬を伝う雫を雨に紛れさせて。 そんなことをしたって、彼の望むひとは戻ってこないのに。 「風邪引きますヨ」 同じようにまた私も道化を演じて傘を傾ける。 彼をこちらの世界に引き込んだことを後悔するつもりはない。権利も、ない。 示したのは自分でも、選んだのは彼だ。これは言い訳などではなく、事実。 だから私には後悔する権利は、ない。 「ギルバート君」 だからせめてこうして傘を傾けるのだ。 利用価値のある駒に消えられたら困ると、冷徹な道化を演じて。 彼は心配すらさせてくれないから。 その冷たい身体を抱き締めることすら、させてくれないから。 「そんなんじゃ、手に入れたいものも手に入りませんヨ」 それが手に入らなければ、もう君の会いたいひとには会えないでしょうネェ。 一度でいい。 弱った羽を広げてほしい。 疲れきって、傷つくにいいだけ傷ついた、そのぼろぼろの羽を。 「・・・・・・戻る」 あぁ、何て滑稽な。 そんなことを望む権利すらもう、自分にはないというのに。 あの羽に一番最初に傷を刻んだのは自分だというのに。 あぁ、冷たい雨だ いつか止んで 太陽が顔を出せば探し人が現れたなら 彼の羽の傷も癒えるのだろうか そんな日が来ればいいと 道化師は真っ暗な空を見上げた “時雨” (意味はふたつ) (通り雨と、君の頬を濡らす雫) 誰か気付いてくれてるだろうか・・・ 今までのshortの話、全部タイトルがしりとりになってるんですが・・・(笑)←雰囲気ぶち壊し ← → |