04
 緑谷出久主人公が雄英高校を志望しているのならアクシデント位はあるのだろうが当然受かるだろう。
 他の世界でもそうだったように主人公の近くにいた方がより世界を楽しむことができる。しかしかといって近過ぎては面倒事に巻き込まれるのだ。
 近過ぎす遠過ぎず、接触しようと思えばできて、相手もこちらを認識できる距離といえば――

    ◆

「雄英高校受けようと思うんだけど……」

 夕食中、相澤夫妻にそう切り出した。夫妻は驚いた顔をしたあと、その表情は喜びと心配に別れた。

「ヒーロー科?? ヒーロー科だよね? ヒーロー科うけるんでしょ?」
「マコトがそう言うなら反対はしないけど、お父さんのことだったら気にしなくていいのよ?」
「えーと、ヒーロー科も一応併願するけど、本命は普通科かな?」
「何で!?」
「ヒーローとか向いてなさそうだなーって」
「じゃあどうして雄英行きたいの?」
「どんな人達がヒーローになるのか見ておきたいというか、警察官になったときのコネ作りと言うか……」

 さすがに動機が不純かと、両親の顔をチラ見すれば、意外にも二人は嬉しそうな顔をしていた。

「な、何で嬉しそうなの……?」
「だって、初めてマコトがはっきりこうしたいって言ってくれたから」
「そうそう、マコトはなんでもいいよとかどれでもいいよとか、我儘も言わないし、お小遣いもあまり使ってないようだしね」

 どうやらかなりいい方へ勘違いされているらしい。
 なんでもいいと言ったのは興味がないから。
 どれでもいいと言ったのはどうでもいいから。
 お小遣いだって、使い道がないだけだ。

「娘がヒーローってやっぱりちょっと憧れるけど、マコトが決めたことをお父さんは応援するよ!」
「っ、ありがと……」

 どんなに赤の他人だと思っていても、向けられ続ける純粋な感情は胸の内を震わせる。
 やはりいい人達だと思う。本当に自分のようなクズには勿体ないくらいの人達なのだ。

「……ところで、偏差値足りてるの?」
「うぐっ!」

    ◆

「という訳で、勉強します」

 自室の中央で仁王立ちになって言う。
 すると自分たちがキョトンとしたあと得心したように頷いた。

「いきなり影分身したから何かと思えばそゆこと」
「経験値溜まるし使わない手はないよね」
「世の受験生が知ったら発狂しそうだね☆」
「目指せ雄英!!」
「行こうぜ雄英!!」
「Plus Ultra!!」

 一階から聞こえた母親のうるさいわよーとの注意に仲良く全員で返事した。

    ◆

 昼は学校、夜は影分身達と勉強会という生活を送っていたある日、どういう訳か担任に呼び出されて生徒指導室にきていた。
 担任の手には黒表紙。一体何が書かれているのか、問題になりそうなことをした覚えがなく、マジで自分何やった? と記憶をめぐらせていた。
 そして重苦しい雰囲気で担任が口を開いた。

「相澤……お前変な薬とか危ないこととかやってないよな? 悩みがあるなら相談乗るぞ?」
「まって先生何の話?」
「ここ最近で急激に成績上がっただろ。雄英に志望校変えて張り切ってるんだと思っていた……俺だって教師歴がそんなに長い訳じゃないが、この上がり方は異常だ。塾には通っていないそうだし、連日徹夜という様子でもない。……お前、何をしている」

 これにはもう驚きを通り過ぎて呆れるしかなかった。担任のハードボイルドも真っ青な真剣な表情に吹き出さなかった自分を褒めて欲しいくらいだった。

「先生、変な薬ってアレですか? 新たな自分が目覚めてしまいそうな感じの名前の」
「お前やっぱり……!」
「変な心配しないで下さいよ。個性を使って効率よく勉強してるだけですから」

 内緒にしてくださいねと担任に言い、印を切る。
 薄煙とともに目の前に新たに現れた二人の教え子に、担任は目を瞠って動きを止めた。

「「「こんな感じで複数人で勉強してます」」」

「おっ、おまっ、増え……!!?」
「やだー、先生口ぱくぱくして金魚みたい」
「そんな驚くような個性じゃないよね?」
「多分?」
「……頭が誤作動起こしそうだ……頼むから減ってくれ」

 影分身を解除すると、担任は目頭を揉みながらため息をついた。

「悪かったな呼び立てて。帰っていいぞ」
「ほーい」

 ドアに手をかけたマコトの背中に担任が言う。

「頑張れよ、未来の雄英生」

 本当に、ここにはいい人しかいない。

    ◆

 そしていよいよやってきた一般入試実技試験当日。

「えぇっ! 相澤さんもヒーロー科受けるの!?」
「受けるよー。あれ、言ってなかったっけ?」

 ここにいるということはゴミ掃除が終わり個性の譲渡が間に合ったということだ。確かに初めにあった頃はオタク丸出しのヒョロガリだったが、今は全体的にがっしりしている気がする。
 こっそり出久を写輪眼で見てみると、オールマイトと同じ個性の色がその体を薄らと覆っていた。

「どけデク!!」

 朝っぱらからの怒鳴り声に振り返れば、本当にこいつヒーロー目指してんのかよって表情の爆豪が不機嫌そうに歩いてきていた。

「かっちゃん!!」
「俺の前に立つな殺すぞ」
「おっお早う、がんバ張ろうねお互ががい……」

 道は空いているのだから避けて行けばいいものを、わざわざ間をつっきって行く。
 出久はもうビビるのが癖になっているのだろう。こちらもお前本当にヒーロー目指してんのかよって顔だった。

「私達も行こうか」
「うっ、うん!」

 とは言ったものの、隣にいたはずの出久がいつの間にかいなくなっていた。
 どこ行ったんだと見回すと、後ろの方で何やら浮いたリュックで宙吊りになっていた。
 そばにいるボブカットの可愛らしい女の子の個性なのだろう。出久が頭を下げてお礼をしているということは、転びかけたのを助けてもらったようだ。

 ――ヒロインですね、わかります。

 お邪魔虫にはなりませんよーっと、気配を消してさっさと大講堂へ向かった。


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