信長協奏曲女主

名前
 相沢累(デフォルト:相沢累)

 サブローの幼馴染。サブローのことが好き。
 体を動かすのは得意。頭はあまりよくない。
 スマホが手放せない。故にソーラーチャージャー完備。
 サブローと同じく色素は薄め。

※話の都合上の捏造や妄想が含まれます。矛盾していても深く考えずに雰囲気で読み飛ばしましょう。
※ご都合主義万歳!




 相沢累の朝は少しばかり早い。
 身支度や朝食など自分のことを早々に終えると、隣の家に住む幼馴染のサブローを起こしに行くからだ。
 サブローの両親は仕事の関係で朝が早く、それによって叱る人がいなくなるため隙あらば学校をサボろうとする。理由は『退屈だから』。意味がわからない。
 累はサブローの母親から預かっている合鍵で玄関を開けると、すぐ目の前にある階段を上がり右手にあるドアをノックする。
「サブロー、起きてるー?」
 返事がないのを確認すると遠慮なく部屋へ入り、ベッドでぐっすり眠るサブローを文字通り叩き起こす。
「んー……、あと五分……」
「そう言って五分後に起きたことないじゃん!」
 漫画雑誌やらエロ本やら変な玩具が散乱する中から引っ張り出したしわくちゃの制服をサブローに投げ渡すと、累は階段を降りて台所へ向かい、勝手知ったるなんとやらで引き出しからラップを取り出し炊飯ジャーを開けておにぎりを作り始める。
「……お腹すいた……」
「おにぎり作ってるから学校行きながら食べてね。……カバンは?」
「あ、部屋だ」
 サブローの母親が置いて行った弁当とおにぎりを持ち玄関で待機する。しかし、スクールバッグを取りに行ったサブローが中々戻ってこない。まさか、と部屋へ行くと案の定ショルダーベルトを握ったまま息絶えたように部屋の真ん中でサブローが寝ていた。
「――って、寝るなー!」
 とまぁこんな感じで累の努力虚しく、結局遅刻ギリギリで走る羽目になる日の方が多い。
「サブロー起きて! 走って! 遅刻しちゃう!」
 もぐもぐとおにぎりを齧りながら眠そうにダルそうにしているサブローの手を引いて、半ば引きずりながら走る。この光景を日課ととらえている近所の人からは「またか」と呆れと微笑ましさが混じった生温かい視線が二人に送られるのである。
 そんな羞恥という名の死線を掻い潜り命からがら住宅街から脱出した頃になってようやく、おにぎりを食べ終え目が覚めてきたサブローは大真面目な顔付きで累にこう言い放つのだ。
「累走んの遅くない? このままじゃ遅刻なんだけど」
「サブローが中々起きないからでしょ!? それに私は足早い方ですー!」
 声を荒らげる累をスルーしてサブローは何食わぬ顔で追い抜いていく。
「ほら何してるの、行くよ」
 当たり前のように差し出される手。累がそれを掴むなりサブローは力強く引っ張って行く。しっかりと繋がれた二人の手が離れたことは一度たりともなかった。
「なんかさー、最近累の手ちっちゃくなった?」
「……サブローが大きくなったんだよ」
「あぁ、なるほどね」
 累の目の前を走る見慣れた背中。スクールバッグに入れっぱなしでヨレヨレになったブレザー、風にたなびく首に引っ掛けただけのネクタイにボサボサの栗色の髪。裾を捲り上げたズボンは、お世辞にもロールアップなどと言うファッショナブルな響きとは程遠かった。
「……もうちょっとちゃんと制服着たら?」
「やだ。堅苦しいの嫌いだもん」
「またそんな事言って……上級生に絡まれても知らないよ?」
「へーきへーき、みんなそんなヒマじゃないって」
 手を引いてくれるこの背中が累は好きだった。それよりもなによりも、サブローのことが小さい頃から大好きだった。

「終わったら校門で待ってるからね」
「ほーい」
 サブローのクラスで別れて自分の教室へ入る。担任はまだ来ていないようで、クラスメイト達はおしゃべりをしたり本を読んだりゲームをしたりと思い思いに過ごしていた。累が席に着くなり友達の一人がニヤニヤしながら近付いてくる。
「毎朝毎朝彼氏同伴でご登校とは、ご馳走様でーす」
「彼氏じゃなくて幼馴染だってば。何回も言わせないで」
「えー、でも累は好きなんでしょ? じゃなきゃ毎朝起こしに行ったりしなくない?」
「黙秘権を行使しますー。弁護士が来てからでないと何も話せませーん」
「あぁっ! なんて健気な通い妻……!」
「……うっさい」
 健気なのではない。累は『幼馴染』という特権が惜しくて踏み出せないのだ。幼馴染という特別枠を飛び出してサブローとどうこうなりたいと心の底では思いこそすれ、実効に移すことがどうしても出来なかった。勿論、恋人になることができればそれはベストだが、幼馴染みという居心地の良い今のポジションはベターに近い。
「私が意気地なしなだけ……」
 進展よりも保身を選んだ累の呟きは、スピーカーから流れるチャイムに掻き消された。

 放課後、校門で待つ累の前にいつまで経ってもサブローは現れなかった。

 朝はサブローと一緒だった通学路をのろのろと歩く。ブレザーのポケットからスマートフォンを取り出してチェックするも、サブローからの音沙汰はなかった。
 どうして先に帰ったのか、一言あってもよかったのではないか、なぜ、電話に出ないのか? そんな言葉ばかりが頭の中をぐるぐる回り、メッセージを打っては消すを繰り返した。
 ……何か自分キモいな……。
 サブローの名前ばかりが連なる発信履歴を見て溜息をつく。オレンジ色の空を見上げて感傷的になっていると、スマートフォンが震えて着信を知らせてきた。サブローからかと一瞬喜んだのも束の間、画面に表示されたのは望んでいた名前とは当たらずといえども遠からずなサブローの母親からで、思わずがっかりしてしまった罪悪感を少しばかり覚えながらも画面をスライドさせて電話に出た。
「もしもし、おばさんどうしたの?」
 通学路に掛けられた歩道橋の階段を上がる。慌ただしく走って来る男が視界の端に見え、朝の自分達もあんな感じだったのかなと頭の隅で思った。
《――累ちゃん、サブローそこにいる?》
「いえ、今日は一緒じゃないです。……先に、帰られちゃったみたいで」
《あらそうなの? おかしいわね……家には帰って来てないし、携帯も繋がらないのよ。まぁ、あの子のことだから、お腹が空けば帰ってくるとは思うけど……》
「え、それって――」
 どういうことですか? そう続けようとした瞬間、累は肩に鈍く重い衝撃を感じた。足の裏から階段の硬い感触がなくなり、体が宙に浮く。
 耳元から遠ざかっていくサブローの母親の声。ゆっくりと移ろう景色には、歩道橋や街路樹や通りの両脇に建ち並ぶ様々な建物。そして、先程視界の端に見た男が驚愕の表情でこちらを見ていた。
 ――もしかしてこれは、……やばいやつ……?
 無重力状態にも似た感覚を覚えたのは一瞬で、建物の窓ガラスに反射した黄金色の夕日に包まれて目が眩む。それが何かの切っ掛けかのように落ちる速度が増し、濃いオレンジから紫へ変わりつつある夕焼け空が目の前一杯に広がった。
 やがて襲いくるであろう衝撃に備えて硬く目を閉じ身構える――なんて器用な真似が出来る余裕はなく、重力にされるがままに累は背中を打ち付けた。
 衝撃で肺が揺れて咳き込んだ。背中の痛みも治まり起き上がろうと手をついたことで、あるモノを持っていないことに気付く。
「スマホ!」
 幸いにもスマートフォンは累から少し離れた所に落ちていた。ケースは少し汚れていたが傷もなく故障はしていないようだった。
「うわ、最悪。このケース気に入ってたのに、電話も切れちゃってるし……」
 そこでようやく累は自分がいる場所の地面がコンクリートやアスファルトではなく、草の生えた土であることに気付く。急いで辺りを見回せば、そこは見知らぬ田園地帯だった。
「――えっ?」
 ついさっきまで自分がいた場所からは何をどうやっても繋がらなかった。建造物も街路樹も歩道橋もアスファルトも、見覚えのあるものが何一つない。
 夕日に照らされて黄金色に輝く稲穂は、風に吹かれて海原のように揺れる。累の髪を揺らし頬を撫でるその風は、少しだけ新品の畳のような匂いと土臭さを孕んでいた。空にはとんぼが飛び、少し動けば足元からバッタが飛び出してくる。
 リアルだった。夢や幻覚では説明出来ない程にリアルだった。
「……ここは……、どこなの……」
 累の不安を煽るように、夕日が遠くに見える山の稜線に沈んで行った。


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