名前負けって、何の免罪符にもなりませんよ。
 そんなにジロジロ見るなよ。街往く人の視線が痛い。真夏に黒い外套を着てその上フードまで被ってるなんて、頭がイカれていると思われても仕方がない。でも仕方ないじゃないか、脱いだ方がもっとヤバいんだから。この外套を脱いでしまったら銃刀法違反しまくりの超が付く危険人物になってしまう。でも暑くはない。体感温度自動調節機能の術式を組み込んでいるので、いつも快適なのだ。寧ろフードまで被って完全防備しないと暑くて死ぬ。
「あーもーどうしよ」
 世界を知るために歩き回っているが、至って普通の現代日本だ。ついでに言えば池袋。何で池袋? ちらっと思い出し掛けたが、形がはっきりする前に遠くへ行ってしまった。うんうん唸って思考の迷路をぐるぐる廻る。だから私は気が付かなかった。バーテンか客引きのような格好をした、金髪グラサンの男の人にぶつかったことに……。

「――無視してんじゃねぇぇぇぇぇ!!」
 耳に届いた怒号。明らかに自分に向かってくる風切り音にとっさに横へ跳躍すれば、一瞬前まで立っていた場所に自動販売機がめり込んでいた。えぇぇぇぇ……。何なのコレ。
「人にぶつかっておいて詫びの一つもないどころかよぉー、呼んでんのに無視るとはいい度胸じゃねぇかぁー」
 あれ……。何かコレ覚えがあるような、ないような?
「臨也みてぇな格好しやがってよぉー、お前あいつのファンか? 取り巻きか?」
 ちょ、黒のロングコートしか合ってねぇ! ――て、あれ? 何で私そのイザヤなる人物が黒のロングコートを着てるって知ってるんだ……?
「つーわけで手前も死ね」
 地面から引き抜かれた『一方通行、但し自転車は除く』の道路標識。それをいとも簡単にまるで棒っきれを振り回すように振るう金髪グラサンのお兄さん。それをのらりくらりと躱しながら、どうしようかと考えていると、人混みの中から同じ単語が聞こえてくるのに気が付いた。それは、『シズオ』。
 シズオ? しずお? ……静雄? 静雄!! 平和島静雄!? そうだ! 思い出した!
「デュラララ!!」
 確かにこの世界は現代日本が舞台だ。だけど舞台であって現代日本じゃない! 帰れる! あの世界に帰れる! 手掛かりを見つけなくては。手始めにはそう、セルティだ! 首のない人外の女の人! 妖精さん、デュラハン!! きっと彼女にヒントがあるに違いない!!
「オニーサン、オニーサン」
「あ゙?」
 一瞬で懐に入り込めば目を見開いて驚く平和島静雄。だけど私にはそんなの知ったこっちゃない。視線が通い合ったのを確認すると写輪眼を発動して昏倒させた。地面に身体が叩きつけられないように支えると、
「静雄!?」
 人混みの中からドレッドヘアーの男の人が駆け寄ってきた。
「お知り合いですか?」
「……コイツの上司だ」
「そうですか。ではどうぞ。十分もすれば目を覚ますと思いますので」
 長身の成人男性は重い。と言うか煙草臭いので早々に押し付けた。
 さぁてと、セルティさんはどこかなぁ?

「あのシズちゃんがやられるなんてねぇ……」
 ニヤニヤ意地の悪い笑みを浮かべた人物が見ていたなんて、私は知る由もなかった。


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