懐かしい名前ですね。
「やぁ」
 青空から降り注ぐような爽やかな声音。美形なはずなのに酷く印象の薄い男が目の前に現れた。
「凄いねぇ。さっきのどうやったのか、教えてくれないかな。――ああ、俺の名前は折原臨也。君の名前は?」
「――マコトです」
「その格好暑くないの?」
「あなたに言われたくありません」
「俺のはサマーコートだからいいの」
「私も見た目ほど暑くないですよ」
 街の活気から隔離されたような、喧噪すらどこか遠い、室外機から吐き出される熱風とファンの音がじっとりと夏の湿度に炙られた細い路地。これが、折原臨也とのファーストコンタクト。

 平和島静雄と折原臨也からコソコソ逃げつつセルティさんと岸谷新羅さんと仲良くなりつつ、何にも手掛かりが得られないのでそろそろネブラに特攻仕掛けようかなと思い始めたホワイトクリスマス。
 いい子じゃない私にサンタクロースは来てくれないらしい。
 さくさくと雪を踏みしめながら私に向かって歩いてくる白いファー付きの黒いロングコートの男。聖人と同じ名前のくせに聖人から程遠い折原臨也が現れた。
 雪を抱き締めるように鷹揚に両腕を広げ、歌うように話し出す。
「折原マコト、失踪時の年齢は十六歳。田舎から来良学園に入学するために上京し、入学後クラスに馴染めずに孤立。不登校気味になり、ある日突然一人暮らしをしていたアパートから姿を消した。君が最初に会ったときに名前しか言わなかったのは、俺が同じ苗字だったからかな? 確かに折原なんて佐藤や鈴木に比べたら少ないし、印象には多少は残るかもしれないけれど、同じ苗字だからって俺が君に興味を示すとでも思った? ――それとも、失踪中だからかな? ……何で知ってるんだって顔してるね。未成年者の失踪ってことで結構話題になって連日連夜の報道合戦、もしかしたら君より君に詳しいかもね。女子高生が謎の失踪。事件か事故か、少女は今どこに、って感じで他にめぼしい事件もなかったからマスコミの格好の餌でかなり騒がれた。満足だったかい? クラスで孤立して不登校――失踪でもして家族の気を引きたかったのかな? それとも自分を見ないクラスメイトへの復讐? 東京の高校なんて、いかにも田舎の小娘が憧れそうだよねぇ。だけど現実は甘くなくて、思い描いたキラキラした高校生活とは程遠い、孤独でつまらなくて、そんな自分が嫌で嫌で堪らないのに何も行動に移せなくて、そんな自分を更に嫌悪して、理想と現実の軋轢に耐えかねた末の消失願望かな? 社会生活が恋しくなって出て来たんだろうけど……残念だったね。君のご両親、もう君のこと、捜してないみたいだよ」
 凄いな、一人であんなに喋るなんて……!
「それで? 折原さんは何が言いたいんですか」
「臨也でいいよ。お互いに折原なんだし、俺もマコトって呼ばせてもらうから」
 えーと? 確かこの作品は自分と同じ苗字のキャラが出てくるってんで、読んだんだよね。まぁ、それ以外たいした思い入れないんだけど……これはマズいな、妙な具合に世界が混ざってる。全く全く、どうしたもんかねぇ。
 取り敢えずの写輪眼でこの寒空の下いい夢見ちゃってくだせぇな。ずっと一人で喋ってろや、うーざーやーくんよぉー。
 私は塒(ねぐら)に帰ります。

 後に、池袋を彷徨いていた白いガスマスクの新羅父こと岸谷森厳を発見し、以前掴まされた巻物(レプリカ)の本物の在処を吐かせると無事に手に入れ、今度こそNARUTOの世界! と念じながら術式に右手を置いた。
 そして目を開ければ、念願の木ノ葉だったのだけれど……。
 四代目の顔岩がありませんでした。

「どうせいっちゅーねん!!」


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