Trick or treat!
 10月31日が近付くにつれて変わっていく砂隠れの里の街中の様子に我愛羅は居心地の悪さを覚えていた。
 どこを見ても目に入ってくるカボチャやコウモリなどのモチーフはまだしも、オレンジと黒と紫という色の組み合わせの中に知った色を認めては否応無しに反応してしまい、どうにもこうにも落ち着かないのだ。
 その上、この時期のナルトは我愛羅にとって何と言うか、とても面倒臭い存在だった。
 突然やって来て「トリックオアトリート」と言われてもお菓子など用意しているはずもなく、ナルトの気の済むまでイタズラをされたテンプレートのような年もあれば、「トリックオアトリック」などと言うお菓子を持っていても選択肢自体が与えられず結局イタズラされた年もあった。極めつけは「お菓子いらねーからイタズラさせてくれってばよ!」とハロウィンの体裁すら守らない年も記憶に新しい。
 要するにナルトは、ハロウィンにかこつけて我愛羅をどうにかしたいだけなのだ。
 しかし、我愛羅は忍の頂点に立つ五影に名を連ねる風影だ。一介の下忍風情に良いようにやられっぱなしでいるわけにはいかないのである。

 そしてハロウィン当日。
 玄関チャイムが鳴り、回覧板で知らされていた通りに近所の子ども達がお菓子をもらいに来たのかと玄関の扉を開けた我愛羅の目の前にいたのは、思い思いの仮装に身を包んだ子ども達ではなくナルトだった。
「我愛羅! トリックオアトリート!」
 普段のオレンジ色の忍服姿ではなく、シンプルな白いシャツと茶色のズボン、それと同じく茶色のベスト姿だった。そして灰色がかった茶色の獣耳を金色の髪からピンと立たせ、付け牙が覗く満面の笑みで獣の手をわきわきと動かす。「うずまきナルト」の特徴でもある、頬に走る髭のような痣を活かした狼男の仮装をしているようだった。
「……一応言っておくが、それは立派な恐喝だという事をお前は理解しているのか? イタズラが軽犯罪にあたるという事も解っているのか? それに今までやられっぱなしだった分、今年はやり返すつもりだが――その覚悟が、お前にはあるのか?」
 やたらとシリアスぶって我愛羅は語ってはいるが、その手に持つのはお菓子が詰まった陽気なパンプキンバスケットである。
 ナルトは自分の中の何かを確かめるように胸元で軽く拳を握り軽く目を伏せたが、ただならぬ覚悟を秘めた、無駄に真剣な眼差しで我愛羅を見据えた。
「覚悟ならあるってばよ。お菓子が欲しい訳じゃねーし、死者の霊が家族を訪ねてくるなんてのも信じてねぇ。何だったら、今年はイタズラもしねぇ」
「なら、一体何だ」
「――ただ、お前の」
「私の……?」
「コスプレが見た――」
「菓子持って帰れ!」
 我愛羅は思わずパンプキンバスケットの中身を節分の「鬼は外」よろしくナルトに向かって投げ付けていた。色とりどりのキャンディやラッピングされた焼き菓子が飛び散る。
 一体どこから取り出したのか、ナルトが我愛羅の前に突き出したハンガーにはフード付きの赤いケープにフリフリのエプロンドレスという、どこからどう見ても「赤ずきん」にしか見えないコスチュームがかけられていた。その上スカート丈は膝上のミニで、白いニーハイソックスもセットらしい。ただ残念ながら編上げのコルセットがバストを強調するというその役目を果たすことは無いが。
 どうやらナルトのコスチュームは「狼男」ではなく「狼」そのものらしく、「赤ずきん」を取って食う気満々だったようだ。
「くそっ、やっぱ『はいそうですか』とはいかねーよな! こうなったら……これでどうだってばよ!」
 ナルトが素早く印を切り姿が煙に包まれた。そして煙が晴れて我愛羅の周りに現れたのは、様々な衣装を身にまとう見目麗しい青年達だった。
 ナルトお得意のおいろけの術から生まれたハーレムの術の男性バージョン、いわゆる逆ハーレムの術である。
 実は最強の忍術なのでは? との呼び声が高く、練度も精度も完成度にも自信がある。イケメン達に侍られれば流石の我愛羅も少しくらい動揺するのでは、とナルトは期待したが――、

「そ れ で ?」

 そこには動揺どころか温度の消えた無機質な翡翠色があった。
「なっ、効いてねぇ……だと……?」
「……お前は忘れているようだが私は風影だぞ? 然も未婚のな。言い寄ってくる男は掃いて捨てるほどいる。それこそ、見目麗しいだけの男なら見飽きる程に、な」
 我愛羅は側近くのイケメン吸血鬼の顎に指を添えて、唇が触れ合ってしまいそうなほど顔を近づけると、品定めするように目を細めた。いくら外見を変えていても、影分身であっても、ナルトであることに変わりはないのだ。我愛羅に至近距離で見つめられ、影分身の頬に朱が差し恥ずかしそうに目を逸らす。
 そんな影分身の様子に満足したように、ふっと我愛羅が笑みを浮かべた。
「まぁ悪くはない、が――」
 そう言って腕を軽く振った瞬間、我愛羅の周りに侍っていた影分身達が一斉に薄煙とともに消えた。
「私はお前だけでいい」
「我愛羅……。んじゃ早速この服――」
「着ると言った覚えはない」

 このあと滅茶苦茶コスチュームプレイした。多分。


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