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仕事が終わり、不寝番の忍達に挨拶をしながら我愛羅は風影邸を出た。
砂漠の真っ只中にある砂隠れの里は日が暮れると急激に寒くなるため、まばゆいばかりの星空を見上げながら、白くなっているのを確かめるように息を吐く。
「我愛羅」
不意に呼ばれてそちらに向くと、出入口の近くに恋人であるうずまきナルトが寒そうに腕を組み首をちぢこませて立っていた。
「ナルト?」
「おっす、お疲れ」
「あぁ、お疲れ様……」
日中にテマリから砂に来ていると聞いてはいたが、当然家で待っているものだと思っていたし、ましてや迎えに来るとは思ってもいなかった。
「ずっと待っていたのか? すまない、知っていれば早めに切り上げたんだが……」
「そろそろ終わりかと思ってオレが勝手に迎えに来たんだから、気にすんなってばよ」
自分を迎えるナルトの腕の中に素直に納まって、我愛羅はその温もりが想像よりもずっと低いことに気付く。
それもそのはずで、ナルトが普段着ているオレンジと黒の忍服は昼間ならともかく、砂漠の夜には向いていない。
「またこんな薄着で……待つにしても中で待っていれば良かっただろ。砂漠の夜を舐めるな、風邪をひくぞ」
我愛羅は首にかけていたマフラーを外すとナルトの首に回しかける。触れた肩は冷えきっていて、やはり少なくない時間待っていたのだろうと知るには十分だった。
「そんなに待ってねーから大丈夫だって」
こんなに冷たい頬をしてどの口が言うんだと思ったが、あまり言うのも野暮というものだろう。我愛羅はナルトの首の後ろに手を回してマフラーを結び込んだ。
「……苦しくはないか?」
ナルトが寒くないようにとしっかりと巻きつけたマフラーは、ストールにもなる大判サイズなだけあってかなりボリューミーになってしまっていた。
あまりの不格好な仕上がり具合に我愛羅が巻き直すべきかと思案していると、されるがままになっているナルトがマフラーの温かさに安堵したというよりも、もっと別の何かで頬を緩めているような気がして思わず訝しむ。
「なにニヤニヤしている」
「え? これ我愛羅の匂いがするなって」
マフラーに顔を埋めて、ナルトは深呼吸を繰り返す。ちゃんと手入れをしているので臭うはずはないのだが、体臭というデリケートな部分を言われると、湧き上がってくる気恥しさに体温が上がる。
「っ、嗅ぐな。嫌なら返せ」
「嫌とは言っ、ちょっ! 我愛羅、首絞まってるってば、我愛羅!」
やりどころのない羞恥を発散するためか、巻いたばかりのマフラーを取り返そうとこれでもかと引く我愛羅と、絶対に返すものかと固持するナルト。
良い歳をした忍が二人でぎゃいぎゃいと騒ぐ様子に、不寝番の忍達は「あの二人相変わらず仲良いなー」と時たま見られる光景を仏のような穏やかな表情で眺めていた。
結局マフラーはナルトの首に巻かれたままとなり、二人はたわいもない話をしながら帰路を歩いていた。
そんな中、ふとナルトは隣を歩く我愛羅が会話の途中途中で指先に息を吐いて温めているのに気づく。
「我愛羅、ん」
「?」
ナルトが差し出してきた手を数拍見つめた後、不思議そうに握手した我愛羅に思わずがくっと肩を落とした。
「いや、何でそうなるんだってばよ」
ありえねぇ……と、少しばかり呆れ気味に我愛羅の手を取ると、ナルトは指と指とを絡ませて手を繋ぎ、そのまま自分の上着のポケットに入れた。
「な、この方があったかいだろ?」
「……そうだな」
「我愛羅の手冷てぇー」
「ずっと外にいたのに、温かいままの方がおかしいんだ」
「おかしいって、お前なぁ」
手を繋いで歩くという慣れない行為と、その手から伝わる温かさに口元が緩みそうになるのをマフラーで隠そうとして手が空を切ったことで、我愛羅は隣を歩く男に貸していたのだと思い出した。
どうしたのかと顔を覗き込まれて首を振り、何でもないと返す。
待たせて寒い思いをさせてしまったことは申し訳なかったと思ったが、我愛羅はナルトにそっと身を寄せ、一人の時とはまるで違って感じる帰路を歩いた。
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