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「そんな気配出してちゃバレバレだって、出て来なさいよ」
 突然にカカシが修行中にそう言うものだから、驚いたのを覚えている。サスケには気配を感じ取ることが出来なかったからだ。
 更に、カカシが目を向ける岩陰から現れたのが砂隠れの我愛羅だった事に驚かされた。
 中忍試験前にナルト達がちょっとした小競り合いを起こした際に現れた一人のくノ一。強者然とした雰囲気に、同年代でこんな奴がいるのかと興味を引かれたのを覚えている。
「……君か。本戦前にこんなとこまで嗅ぎつけて来て、一体何?」
「準備をしろと言われたから、その通りにしているだけだ」
 カカシから剣呑な雰囲気が醸し出されているにも関わらず、我愛羅はそんなもの何処吹く風で、見咎められているというのに何の焦りもなく淡々と答えていた。
「へぇー、それって少しはサスケの実力を認めてるって事かな?」
「そんなものはどうでもいい。潰すだけだ」
「ま、そう簡単にはいかないよ。サスケはルーキーナンバーワンだからな」
「……木ノ葉は随分と下忍に対して過保護なんだな」
「何?」
「いや、何でもない」
 面白くなかった。自分のことを話しているはずなのに、当の本人を蚊帳の外に置いて会話するカカシと我愛羅に腹が立った。
 それに我愛羅はサスケを一瞥しただけで、どうでもいいとの言葉通り認識し確認する為に目をやっただけの様だった。
 初めて会った時に名乗りを遠回しに拒否され、それ以来目が合うことはおろか顔を見交わす事すらなかった。眼中にないというよりは、完全に存在を無視されている気すらする。
 気付けばサスケは去ろうとする我愛羅を呼び止めていた。自分を一切見ようとしないその目に、少しでも映ればいいと。
「おい、準備とやらは終わりかよ」
 我愛羅は足を止めると顎を上げて挑発的に見下ろしながら振り返った。光のないガラス玉のような瞳を、サスケに向ける。

「お前は何の為に力を求める?」

 我愛羅の無機質な翡翠色には何の感情も思惑も特別見当たらないのに、咎められているような、詰問されているような、それでいて至極どうでもよさそうな、そんな心地悪さと腹の中を弄(まさぐ)られているような不快感にサスケは眉を顰めた。
「……てめーには関係ねーことだ」
「奪い返したいと思わないのか? 自分からすべてを奪い、価値を否定した『存在』から」
 なぜそう思ったのか、そう思うのか、一体自分の何を知っていると言うのか?
 まるで――
「――、」
 サスケが口を開きかけた時だった。
「ハイ待った。……我愛羅、お前がサスケの何を知ってるかは知らないけどね、見透かすような言い方はダメでしょ」
「見透かす? 何を言っている? うちは一族の事を知る忍は少なくない。その『最後』もまた然りだ。だから訊ねた、ただそれだけの事を見透かす? 過保護が過ぎるんじゃないか?」
 カカシと睨み合っていた我愛羅が、不意にすっとサスケを指差した。漆黒のマニキュアが映える、およそ忍らしくない傷一つない白い手だった。
「その『場所』は、随分居心地が良さそうだな」
 表情は全くと言って良いほど変わっていないはずなのに、嗤われたのが分かった。
 所詮お前はその程度だ、と。

「私は私を否定し孤独へと貶めたすべてから奪われたものを奪い返す。そしてそれを邪魔するモノは何であろうが殺す。例えそれが、この世界を構成する主軸の片割れでもな」


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