rain
 何も今日降らなくてもいいのに、とナルトは恨めしそうに雨に霞む景色を窓の外に見た。灰色の空がぼんやりと白く発光していて、晴れた日の透明な光とは違う濁った光が部屋の中に薄暗さを作り出している。久しぶりに木ノ葉を訪れている我愛羅とどこかへ出かけようと思っていたのに、生憎の空模様にその予定は御流れとなってしまった。
 人々の賑わいが雨粒に吸収されるのだろうか。日中だというのに辺りは静まり返っていて雨音がするだけだ。まるで、世界に存在するのは自分と我愛羅だけなのではないかと錯覚しそうになる。
 当の我愛羅は部屋の隅で膝を抱えて本を読んでいるのだが、雨が降り始めてからというもの、不機嫌だと宣言するように眉間に皺が寄りっぱなしだった。
「我愛羅。皺の跡がついちまうぞ」
 近付くなオーラを出している我愛羅に四つん這いでそろそろと近づき、眉間に寄った皺に人差し指を当ててみる。が、間髪容れずにその手を払われ、翡翠色の瞳に睨まれた。
「触るな」
「お前今日すげー機嫌悪いな。そんなに雨嫌いか?」
「砂が濡れるから嫌なだけだ」
 我愛羅はそう言ったが多分嘘だ。確かに砂と水は相性が良いとは言えないが、我愛羅なら雨程度の水気は何の障害にもなりはしないことぐらい、我愛羅自身が一番良く解っているからだ。
「何かあったのか?」
 その問いに我愛羅は口を噤む。何か本当のこととは別の、もっともらしい言葉を探すように押し黙っていたが何も思いつかなかったようで、睨んでいた瞳を伏せると噛んで吐きだすように言った。
「雨は、きらいだ」
 本に置かれた手が少しだけ震えていることに気付かないふりをして、ナルトは我愛羅の隣に腰を下ろした。
「んじゃあさ、こうしてろよ」
 最初に出会ったときよりも少しばかり伸びた、赤茶色の髪に手を梳き入れ頭を引き寄せる。自分のそれとは違って、細くて柔らかくて指通りが良かった。
 先程手を払われたこともあるので嫌がられることも覚悟していたが、案外抵抗感なく我愛羅はそこに納まって、ナルトの心音に耳をすませるように凭れてくる。
「……うるさい」
 聞こえるか聞こえないかで悪態をついた我愛羅の手は、もう震えていなかった。素直じゃねーよなぁと心の中で溜息をつく。
「うるさくていいんだよ。我愛羅がこんな近くにいるんだから」
 好意を抱く相手と密着しているのだから、致し方なく正常な反応なのだ。
 華奢な肩を抱きしめて目を瞑り、ナルトは雨の音に耳をすます。外へ出かけることはできないが、こんな雨の日なら悪くないなと思った。


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