deficiency
 妹に落ち着きがない。いや、落ち着きがないという表現は一見落ち着いて見えるのだからそぐわないかもしれない。……表現はどうでもいい。
 本を読んでいるのかと思えばよくよく見ていると文字を眺めてぼうっとしているようだし、洗濯機の蓋を開けたら干すのを忘れたのか終わったのに気付かなかったのか洗濯物がそのままそっくり入っていた。
 温室が設備点検中なのを忘れて出かけて行ったり、自室から額に手を添えて戻ってきたのでどうしたのか尋ねれば机の下に落ちたものを取ろうと屈んで頭をぶつけたのだと言う。
 この間は砂糖と塩を間違えるなんてベタなことをして、本人も相当ショックだったらしく「次からは三温糖を買ってくる」と呟いていた(三温糖は上白糖と比べて少し茶色っぽい)。大爆笑していたカンクロウが部屋の隅で砂に埋れて痙攣していたのには目を瞑ろう、あれはカンクロウが悪い。
 任務はきっちりこなす分、日常生活の残念さが目に付き始めていた。
 こう言うのもなんだが、妹は多分、どこぞの下忍欠乏症なのだと思う。
 今以上に症状が進行してしまったら何が起きるのか全く想像出来ない。そんな事態を回避するべく「そんなに気になるなら会いに行ってきたらどうだ」と症状緩和策を提案してみるも、当の我愛羅には何を言っているのかわからないと言いたげに首を傾げられた。
 ……可愛い。って、そうじゃなくてだな。
 一つ咳払いをしてから妹の目の前にピッと突き出した人差し指で渦を描いた。
 不思議そうに指先を目で追った我愛羅の表情が何かに気付いたようにハッとした後、わずかにだが頬に紅を差す。
 視線を彷徨わせ伺うように見上げてくる我愛羅の柔らかい赤茶色の髪を撫でた。
「行っといで」
 それから十数分後に我愛羅は出かける支度を済ませて里を後にしたのだった。
 出掛ける寸前小さく「ありがとう」が聞こえた。


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