03
 我愛羅の態度に変化はなかった。生活こそ同年代の子供と変わりなかったが、頑なに人を寄せ付けようとしなかった。
 無機質な目でまるでくだらないものでも見るように、世界を見るのだ。
「どうしてテマリ様から逃げるんですか。我愛羅様はもっと人と関わろうとするべきです」
 定位置になっているソファーに座り我愛羅が本のページをめくる微かな掠れた音が静かな室内の唯一の音だった。ぱらり、ぱらりとページがたっぷり余裕を持ってめくれ、視線を本に固定したまま我愛羅は言った。
「向こうが寄ってくるからだ」
 宜しくない、非常に宜しくない。只でさえも人柱力は孤立しやすいのに、あえて自分から周りを遠ざけて独りになろうとしている我愛羅に、夜叉丸は危機感を抱いていた。
「――どうせ独りになるのだから、最初から誰もいない方が良いだろ」
「違います、違う、そうじゃないんです! 私達は、っ……どうして解って下さらないのですか……!」
 あまりにも悲しいことを言う我愛羅に思わず声が荒くなるが、本から顔を上げ夜叉丸を見る我愛羅の無機質な瞳が、普段とは違い非難の色に染まる。糾弾するような強い視線に、我愛羅が何なのか知らない夜叉丸には、当然ながら何故こんな視線を向けられなければならないのか解らずに戸惑う。
 それでも何か言わなければならないのに、伝えたいことが多すぎて言葉にならない。溢れて、淀んで、煮詰まって、胸の奥に蓄積していく。
 段々と我愛羅の良くない評判や悪い噂が増えている。勿論その殆どが事実でないことは夜叉丸が一番よく知っているが、人は一度良くないことを知るとより悪く見ようと色眼鏡を濃くし始める。我愛羅を一度も見たことの無い人ですら知った気になって悪口を言い触らすようになるのだ。
 だから、今のままでは駄目だ。人に好かれ守って貰うための努力をしなければ、行く先に待つのは孤独死だけ。
 それなのに、目の前の我愛羅は夜叉丸の気持ちを汲み取ろうともせずに不幸への道を突き進む。
「――そう言えば最近テマリが来ないな」
 ぽつりと我愛羅が言った。先日の大泣き以来ばったりと来なくなってしまったのだが、やはり来ないとそれはそれで寂しいのだろうかといやが上にも期待してしまう。
 だが、その後に続いた言葉に夜叉丸は絶望を感じてしまった。
「押して駄目なら引いてみろ、か。夜叉丸、お前の入れ知恵か?」
 ここにはいないテマリを見下げるように口角を上げくっと喉で嗤った我愛羅に、頭を鈍器で殴られたようなショックを受ける。
 もう駄目だ。本当にもう、限界だと思った。
 我愛羅にはもう何も届かないのではないか、徒労に終わったのではないか、全てが無駄だったのではないか。粉々に打ち砕かれた努力、もしかしたら、もう少し頑張ればと、邪念を振り払い必死に縋りついた切望。
 頭の中が真っ白に染まり、足に力が上手く入らない。数歩覚束無い足取りで後退ると背中にドアノブが当たり、そのまま夜叉丸はドアを後ろ手で開けると我愛羅から逃げ出した。




補足:女主は原作知識と前の人生の影響で皮肉屋が入った極度の人間不信。夜叉丸にとって女主は庇護対象なので、戦い方とか身の守り方を教える発想自体がない。人柱力である女主を周りの人に守らせようと何とか人の営みの和に入れようとするのだけれど、頑として梃子でも動かない女主を見限ってしまいそうな瀬戸際。乏しい文章力が悔やまれる。


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