02
 夜叉丸の困ったような苦笑いを見るのは何度目だろうか。テマリが我愛羅の部屋へ行くと、必ずと言って良いほど部屋の主はそこにいなかった。
 ただ、一緒にいたいだけなのだ。
 妹が生まれ、代わりに母が死んでしまったのはとても悲しかったが、自分は我愛羅の「お姉ちゃん」なのだから、母の代わりに一緒にいてあげたいと思った。
 それなのに当の我愛羅には滅多に会えず、たまのチャンスに巡り会えたとしても、いつの間にか終わっている会話にいたたまれず途中退場。今のところゼロ勝全敗だ。
 心を開いてくれる気配が全くない。心が折れに折れて挫けそうになる。
 最早テマリを支えているのは「姉」としての義務感とプライドだけだった。
 少し前にどうにもこうにも堪えきれずに「わたし嫌われてるの?」と夜叉丸に聞いたことがあった。しかしその問いに明確な答えは貰えず、少し考えてからテマリに視線を合わせるようにしゃがんで夜叉丸は言った。
「きっと寂しくてどうしたらいいのか分からないのでしょう。お腹の中でずっと一緒だった姉さんと突然引き離され、その上唯一無条件で安心できる場所であるはずの姉さんは死んでしまった。だから我愛羅様は今、安心できるところを一生懸命探している途中なのです。
 テマリ様、人は一人では生きてはいけません。それはわかりますね? 我愛羅様はひとりぼっちになりやすい特殊な立場にいるだけではなく、誰かと関わることに酷く苦手意識を持っています。だから近いところにいる私達が支えていかなければなりません。
 我愛羅様のあの態度ではテマリ様が嫌われているのだと思っても仕方ありませんが、本気で嫌っている訳ではないのです。
 時間はかかるかも知れないですが、テマリ様や私達が安心できるところなんだと、少しずつでいいから我愛羅様に分かって貰いましょう?」
 何て凄い人なんだろうと思った。開くかどうか分からない我愛羅の心をずっと待っている、その忍耐と努力に感服した。
 我愛羅に向き合おうとする度に、何度も何度もその言葉を思い出した。時間がかかることだと解っている、それなのに、
「っふ……くっ……」
 悔しくて悲しくて、諦めそうになっている自分と自分達を顧みない我愛羅に腹が立って、涙が出た。
 逃げられ反らされるばかりで一向に自分を見ようとしない妹。今まで一度たりとも目が合った事なんて無かった。
 何で、どうして、やはり「姉」では駄目なのか? 「母親」でないと駄目なのか?
 服の袖で乱暴に涙を拭う。あっと言う間に袖は涙で重くなり、噛み締めた顎の奥が痛くて酸っぱくなった。
 ふっと身体が暖かくなり夜叉丸が抱きしめてくれているのだと分かったが、何も言わずに頭を撫でてくれている温かさで、涙が余計に溢れ止まらない。
 不甲斐ないとは思う、けれどもこれ以上どうして良いのか分からなかった。
 鬱屈を晴らすように、夜叉丸の腕の中でテマリはしばらく泣き続けた。


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