Pathos-Logy
 肩から下がったままの両腕が抱き締め返してくれる気配はない。まるで自分だけが思っているのではないかと疑心してしまう。
 彼女の「好き」と自分の「好き」が同じものなのか、確かめるのが怖かった。
「……我愛羅は、さ」
 自分は一体何を聞くつもりだった? 途端に喉がヒリついて、言葉が続かない。
 以前、どれくらいの期間会わなくても平気かと尋ねたら、「必ず会えるという絶対があるならば何年でも」と我愛羅は答えた。それが良い答えなのか良くない答えなのか自分には判らなかったが、嬉しい答えではなかった。
 悪気がないから質が悪い。ここは一つわからせてやらなくてはと、ぐいと襟を掴んで首筋に唇を寄せる。
 驚いて強張って、素早く離れた我愛羅が首を押さえるまでのほんの一瞬、白い首に付いた赤い痕がはっきりと見えた。
 何をするんだ、と我愛羅が睨む。
 あぁ何だ、本当に、何にもわかっていない。
「何年でも平気だなんて言う、お前が悪いんだってばよ」
 脈絡のない自分の返答に我愛羅は一瞬黙り込んだが、以前した会話に辿り着いたようで溜息を吐いた。
「……平気だけど、平気じゃない……」
 首筋を手のひらで覆ったまま、ぽつりぽつりと話し出す。
「私は、何年もお前に会えなくても多分耐えられる。何とも思っていないとか、どうでもいいとか、そういう意味じゃなくて……お前がいてくれれば、それで良いんだ。それだけで、いいんだ。同じ世界にいて――」
 その後も何かしら言っていたようだが、聞いていられるはずもなかった。
 何て身勝手なんだろう。我愛羅の中だけで完結した、独りよがり。それは自分に何の期待もしていないと言うことだ。
 違う。胸の内で呟いた。本当ならば、叫びたかった。
 恋とはもっと汚いものだ、と。
 みっともなくて、笑えるくらい馬鹿げてて、そんな、擦り切れて枯れ果てた感情は恋とは言わない。
 思っているだけではことたりないのか。
 彼女の世界では、もう既に自分という存在は完結してしまっているというのに。
 悔しくて悲しくて、哀しくて、愛しくて。
 零すように話す我愛羅を、自分の胸に押し付けるように掻き抱いた。
 苦しい。そう、くぐもった声が胸に響いて聞こえた。
「オレだって、苦しいってばよ」

 息苦しくて、堪らない。


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