染め色
 春の木ノ葉を訪れるのは意外なことに初めてだった。
 柔らかい日差しにほんのりと甘さを含んだような空気。街を行く人の表情もどことなく陽気に感じられた。
「早く行かねぇと食うもんなくなっちまうってばよ!」
 意気揚々と足取り軽いナルトに手を引かれて緩やかな山路を登る。時折風に乗って聞こえてくる賑やかな声。今日のような絶好の花見日和に考える事はみな同じなのだろう。現に私も御呼ばれしてここにいる。
 山肌の桜色。風が緩やかに風花のように花びらを運んだ。花弁の一枚一枚は白く見えるのに、人は昔から桜の木を桜色に描いてきた。
「凄いだろ?」
「あぁ、凄いな……」
 世界が変わっても桜は変わらない。咲いて、散って、青葉を揺らし、枯葉を落とし、冬を越す。
 ざぁ、と。一陣の風が吹き抜けた。乱れる髪を押さえて風の行く先である木ノ葉隠れの里を見下ろした。
「……里に雪が降ってるみたいだ」
 砂隠れにも四季がない訳じゃないが、木ノ葉ほどはっきり四季の移ろいを感じる事は出来ない。
 生まれて死んだのは桜の国で、生まれ変わったのは桜の咲かない国だった。
「どうした、我愛羅」
 足を止めてしまった私を窺ってナルトが顔を覗き込んできたが、多分今とても情けない顔になっているであろうことが容易に想像できたから、桜の木を見上げるふりをして顔を逸らした。
「……何でも、ない」
 声が震えていないのを祈るばかりだったが、ナルトが繋ぐ手の力を少しだけ強めたので失敗に終わったのだと思った。
 青空に映える桜の淡い白さが目に沁みて、少しだけ目頭が熱くなった。
 込み上げるのは郷愁か寂しさか。この景色はこの世界で一番、あの世界に似ている気がした。




いや、何か春になれば当たり前に咲いていたのに当たり前じゃなくなって、でもなくなったわけじゃなくて、遠い存在になっちゃったけど変わらずに綺麗に咲いていたからちょっと寂しくなっちゃったみたいな?


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