apprivoiser
 綱手から我愛羅が木ノ葉に残ると聞いて何の冗談だと思ったのも束の間、何の陰謀か自分が担当上忍になることが既に決まっていた。火影命令では辞退することも出来ないので引き受けたがあまり気が進まない。……何故気が進まないのだろう? 今までも任務で他里の忍と一緒になったことは何度もある。公私混同? それはない。そもそも我愛羅個人に対して何か思うところがある訳ではないのだ。答えを探してもこれといった理由が見つからない。
 ……しまった。
 考え事をしながら歩いていたら足が自然と慰霊碑に向かっていたようだ。綱手に言われた我愛羅との待ち合わせ場所は火影邸前、そこから木ノ葉病院に行ってそろそろ退院になるはずのナルトとその病室にいるはずのシカマルと合流して――とまあ、こんな感じで我愛羅の為の臨時カカシ班が揃うわけだったのだが、もう慰霊碑は目と鼻の先だ。考え事をしていたとは言え我愛羅が火影邸の前にいれば気付くはずなので、まだ来ていなかったのだと思われる。
 少しだけ、少しだけだとカカシは自分に言い聞かせて、そのまま慰霊碑の前に立ち『英雄』の名が刻まれた石の塊を見下ろした。

「何で正座?」
 火影邸の前で行儀よく両手を膝に揃えた我愛羅を見下ろしながらカカシは首を傾いだ。
「…………気にするな。それにしても、随分遅かったな」
 やおら立ち上がり膝の埃を払う赤い髪の少女――我愛羅の口から出た言葉は予想通りに不機嫌な色をしていた。慰霊碑の前の「少しだけ」は優に一時間をオーバーしていたので、当然と言えば当然だった。
「いやぁー、それがみ――」
「道に迷ったなどとほざくようなら殺す」
 スマンスマンと軽い調子で頸裏を掻けば喰い気味に冷たく言い放たれた。自分が受け持つ生徒のリアクションに比べれば調子は大人しかったが、抑揚のないその物言いが物騒だと言わざるを得ない。
「君容赦ないね……。違うよ、お婆さんに道を聞かれて案内してあげてたんだよ」
 見え透いた弁解に我愛羅はどんな反応をするのだろう。ナルトとサクラのように一々嘘だと指摘して騒ぎたてるようなことはしないだろうが、忍なら時間を守れと正論で来るか、ゲンマたちのようにそういう人間なのだと自分を諦めの目で見るか。だが正解はカカシが思ったそのどれでもなかった。
「……そうか」
 と、微かに眉根を寄せ、身長差ゆえに軽く睨み上げられるようになっていた目が少しだけ気まずそうに逸れた。
 この反応は予想していなかった。まるで何故カカシがこんなにも遅くなったのか知っていて、それ故に口を噤んだような――まぁ、あり得ない事だが。
「話は聞いてるよね。じゃあ、行こうか」
 深く考えそうになっていた思考を中断し、こんな所でぐずぐずしていたら日が暮れてしまうと自分の行いを棚に上げて、目的地である木ノ葉病院へ歩き出す。
「カカシ」
 少し歩いた所で呼び止められた。何だろう、歩くのが少し早かっただろうかと振り返る。
「……その、世話になる」
 何を言えばいいのか迷うように少し口ごもっていたが、確かに聞こえた歩み寄る言葉。躊躇いがちに向けられた翡翠色の瞳は、中忍試験の時とは違った印象をカカシに抱かせた。
「うん、よろしくね」
 無機質なガラス玉感は変わらないが、そこには確かに人としての温度があった。


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