1st day
 木ノ葉隠れの里から応援要請がきた。火影直々の依頼だそうだ。
 任務内容は「うちはサスケの奪還任務に就いている下忍チームへの加勢及び援助」。――ダルい、面倒臭い、やる気ない。そんな感じでさくさくっと君麻呂を倒して木ノ葉に報告しにやって来た。……君麻呂? まあ、強かったんじゃないの? 献体が再生医療に役に立ちそうだなぁくらいにしか思わなかったケド。ああでも大蛇丸の手垢が付いているから使えないか。残念! ……古っ。では、今の状況を説明しようか。私は怒っている。以上だ。
「理解と納得が同時にできるように説明しろ」
 最高レベルの怒気を含ませれば、目の前に正座している姉と兄が震えた。私はいつも通り仁王立ちなので、必然的に見下ろす形になる。火影邸の真ん前でそれをやっているのだ、先程から視線やらひそひそ声やらで耳のあたりがウザったい。
「いや、だから、正規部隊に入ると言ってもいきなりうちの里の正規部隊だと色々と難しいから、同盟国の隠れ里である木ノ葉で結果を残せば上役も説得しやすくなるんじゃないかなぁー……って、カンクロウと話し合ったんだ。火影様に話は通してある」
 テマリがそう言い、隣のカンクロウに目をやれば間違いありませんとばかりにぶんぶん首を縦に振る。
「言い分は解った。……だがそう言うことも含めて、あの里で一から始めないと意味が……」
「っ――この分からず屋!! たまには年上の言うこと聞けよ! 頑固! 皮肉屋! 臍曲がり!」
 私の話を遮って噛みつくように息巻いて立ち上がったテマリに、ちょっとそこに座んなさい! と地面を勢い良く指示されて、脊髄反射で正座してしまう。立場逆転。目の前で同じく正座しているカンクロウが、やれやれと溜め息を吐いていた。
「いいか我愛羅。若い時の苦労は買ってでもせよと言うが、するべき苦労としなくても良い苦労がある」
 拳を握りしめ、演説並に感情を込めて力説する。差し詰め私とカンクロウが傍聴人だろうか。
「人生は短い、忍の人生なんてもっと短い。その短い人生の中で里の古狸の相手をする時間はもっと後でいいんだ。……いきなり何でもかんでも頑張ろうとするな。何のための姉兄だ、使えるものは使っておきな」
 ニッと笑顔になるテマリに面映ゆさを覚える。決まりが悪いというか据わりが悪いというか、とどのつまり私はこの表情に弱いのだ。――まてよ、今の姉妹の絆的なまったりした空気に流されそうになったが、
「……何か色々、無理がないか?」
「――大丈夫だ、問題ない」
 いやいやいや、それ駄目なときに使うんだからね? てかやっぱり駄目だよ。いきなり木ノ葉とか、ハードルが高過ぎる。任務内容じゃなくて、心労とか、色々な意味で。頭の中で走馬燈のように様々な人物の顔が過っていき、その人物達と接触してしまう自分を想像する。……やっぱりないな。
「……私を置いていくのか……?」
 カンクロウの袖を遠慮がちに摘み、不安に揺れるように見える瞳で見詰める。ふははは、くらえ! 「おいてかないでお兄ちゃん」攻撃! 因みに対カンクロウ用なのでテマリには利かない。ぐっ、と喉が詰まった音が聞こえ、カンクロウの「ああもうどうすんだ、どうすんだよオレ! テマリは怖いし、かと言って我愛羅も置いて行かれるの心細いみたいだし、ああああ……! くそっ、何でオレ真ん中に生まれてきちまったんだ何で一番上か末っ子じゃないんだ、くそっ!」ってな感じの葛藤が全身から滲み出ている。搦め手は今にも陥落寸前だ。だがそこはテマリ、好きな言葉が「夕焼けに鎌をとげ」なだけあって予測済みだったらしい。
「しっかりしろカンクロウ! ここで折れたらお前のなけなしの年長者の威厳が皆無になるんだぞ!」
 と、肩をがくがくと揺さぶり消えかかっていた「兄の威厳」に風を送る。この風使いめ余計なことをしくさってからに。その風が酸素になって届いたのか、威厳が燃え上がる、少々イラっとする真面目な顔で私の手をカンクロウは袖から外した。
「ここで待ってれば担当の上忍が来る手筈になっているから。……それほど長くはかからないと思うけど、頑張りすぎないようにな」
「必ずいい返事を上役からもぎ取ってくるじゃん」
 ニッとテマリと似た笑顔になったカンクロウに内心冷や汗が流れる。――まずい。これはマズいぞ。カンクロウにもその笑顔を習得されてしまったら、本当に何も言えなくなってしまう。ぬぁぁぁ! と脳内で頭を抱えるという珍技を行っていると、頭にぽんとテマリの手が乗せられた。
「じゃあな」
 ぐりぐり撫でられ、いよいよ私は置いてけぼりだ。……おかしいよなぁ。私の方が精神的な年輪は多いはずなのに、テマリが『お姉ちゃん』に感じられるんだよなぁ。カンクロウはまあ、何だ、取り敢えず『お兄ちゃん』ではないよな。保留だ。そんなこんなで二人の後ろ姿を見送り見えなくなってしばらく、
「あいつらマジで置いて行きやがった……」私のその呟きは、誰の耳にも入らずに風に溶けて消えていく。上役の説得という一番面倒なことを引き受けてくれた姉と兄の心の内など私は知る由もなく、正座したまま立ち上がるタイミングを、完全に見失っていた。

「逆ギレして籠絡作戦……思いの外上手くいったな」
「根は素直だからじゃん」


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