爬虫類の夢
 大蛇丸が我愛羅の事を知ったのは、音隠れの里の里長として風影に接触を図った時だった。計画の概要と意図を提示するために謁見室から執務室へ場所を移したのだが、執務室には先客がいた。
 執務机の前に立つ赤茶色の髪、黒い忍服に赤い長布で砂色の瓢箪を背負った少女。それが、我愛羅だった。
 だが我愛羅は振り返って大蛇丸の姿を認めると瞬時に風影との間に身を割り込ませ、風影を背に庇いながら臨戦態勢に入っていた。イヌ科の動物ならば牙を剥いて低く唸り、ネコ科の動物なら姿勢を低くして目をぎらつかせているだろう。目に見えて分かる程、我愛羅は目の前の男、大蛇丸を敵視していた。
「我愛羅」
 風影が我愛羅の肩に手を置き、大丈夫だとでも言うかのように名前を呼ぶ。そうしてからはっと我に返り、遅疑しつつも警戒の色は薄めず、風影の後ろに下がったのだ。
「子供でもあんたの危険性がわかるらしいな」
 フン、と鼻で一つ風影が笑う。そう、あの時我愛羅は警戒態勢ではなく臨戦態勢に入っていた。
 仮にも風影が連れていた客人に敵愾心を向けるなど言語道断。だがそれすらをも上回る何かを本能で感じ取り、我愛羅は動いた。
 接待用のソファーセットに腰を下ろし、我愛羅も隙なく風影の後ろに控える。
「その子、下がらせなくていいの?」
 護衛の暗部でさえ人払いしたのに、なぜこんな子供は残すのか聞く。
「ああ同席してもらう。中忍試験を利用するなら、この子が中心でやることになるだろうからな」
 ソファーの向こうからテーブルの上の計画書や巻物に目を向けている我愛羅を大蛇丸は見た。色白で華奢で美少女といって良い容姿をしている。男受けは良さそうだが、色任務でもない限り容姿の優秀さは忍の実力に考慮されない。才能があったとしてもそれだけでは埋められない、男と女の身体構造的な格差はこの年頃から如実に出始める。
「……使えるのかしら」
「風影の子だ、舐めるな」
 父親である風影に応えるように、我愛羅はテーブルの上に向けていた視線を大蛇丸に向ける。翡翠の双眸に宿る他者を圧倒することに慣れた孤高でしなやかな強さ。ぞわり。大蛇丸の背筋を悪寒とも快感ともつかない痺れが走り、その痺れは大蛇丸が興味を持つ切欠けには事足りていた。
「火影を戴く木ノ葉を落とせば、いくら脳無しの大名でも考えを改めるだろう。木ノ葉を落としてあんたが何をしたいのか知らないが、精々利用されてやるよ」
 それが舌なめずりをする蛇の前で出した、風影の答えだった。

 眼下に揃う本戦出場者達。各国大名や忍頭、本戦まで残れなかった下忍から一般人まで、会場は期待や不安、邪推や冷やかしの入り混じった異様な熱気に包まれている。大蛇丸は射殺さんばかりに自分を睨み付ける、美しい貌(かお)に目を向けた。
『火影』の名以外、欲しいものは何だって手に入れてきた。そんな大蛇丸が利害も損得勘定もなしに興味を持つのは珍しいことだった。呪印を与えて侍(はべ)らすことも出来ただろう。だがそうしなかったのは、自分に向けられるあの鋭い眼差しが綺麗だから。
 君麻呂のように盲信的に従順でも良いが、この少女には殺伐とした孤高が似合うと思った。


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