あかいケモノ
 任務から帰ってきた我愛羅の様子が変だった。例えるならば幽霊。元々色白だった肌は最早幽鬼じみていて、濁る翡翠は虚空を見つめている。
 正規部隊へ無事に配属された後も我愛羅への汚れ仕事はなくならなかった。殲滅、抹殺、里の汚物をため込むには我愛羅はあまりにも無垢だった。いくら人の命を奪うことに慣れていても、憎しみの塊だった時期があったにせよ、我愛羅はずっと無垢だったのだ。
 染まらないはずがないのだ。
 汚れないはずがないのだ。
「――血の匂いが頭から離れないんだ……」
 リビングのソファーに溶けるようにダラリと座った我愛羅が言った。
「我愛羅……」
「手触りが、色が、温度が、味が、消えてくれない」
 震える手の平を見つめ強く握りしめた。自嘲気味に歪んだ唇、暗い瞳は虚ろなままだ。
 これならばまだ、昔の、残忍で冷酷でガラス玉じみた温度のない瞳で世界を見下していた方がましだった。
 ソファーやベッドに沈む我愛羅を見る度に言いようもない不安に駆られる。いつか消えてしまうのではないか、この手からすり抜けてしまうのではないか、やっと、やっと人並みの生活を手に入れたと思ったのに。
 ずっしりと重い忍服に手が触れようものならアカイ色が移り、膨れ上がりそうになる気配を押し込めて気づかない振りをする。
「……テマリ……私は今何のカタチをしている?」
「っ、人だ! 人に決まってるだろ!」
 腕の中の妹の身体が冷たくて、赤い色が移るのも構わずに抱き締めた。
「……何で、テマリが泣いてるんだ……?」
「我愛羅が泣かないからだよ……っ!」

 人の心なんて持ってしまったばかりに、あかいケモノは徒(いたず)らに心をすり減らした。


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