16
 会場中に飛散させていた砂からカカシとサスケが着いたことが伝わり、客席は一層騒がしくなった。
 目を開けてのそのそ立ち上がったところで、丁度場内から戻ってきた勝負に負けて試合に勝ったテマリと目が合う。
 カンクロウと共に何か言いたそうな表情だったが、作戦ならちゃんとやるから安心したまえよ。
 階段を降りて通路を歩いていると、マフラー三重巻きの草隠れの忍コンビが待ち伏せをしていた。一人は通路の真ん中に立ち塞がり、サングラスをかけたもう一人は階段の手摺りに寄りかかっている。
「こういう中忍試験みたいなレベルの低いトーナメントは賭試合にゃもってこいでな……、何人かの大名はそれが目的で来てる」
「――でだ、この試合、負けてくんねーか……」
 レベルが低いのはお前らだろーがよ。お馬鹿さんってのはどこにでもいるんだねぇ。
 中忍試験をレベルが低いと称するあたり少なくとも中忍以上だが、こんなパシリみたいな仕事をしてるってことは大した奴らじゃない証拠。
 話が通じるとは思えないっつーか話をする気がないだろうし、私はとっても短気で心が狭くて億劫なことが大嫌いなので、取り敢えず鬼籍に移籍ですねお二人さん。
 瓢箪から飛び出した砂があっと言う間に二人に纏わりついて拘束していく。
 余裕が焦りに変わり、焦りが危機に変わり、危機が確固たる死の確信にシフトする様は何度見ても面白い。
 慈悲を請う者、只々恐怖する者、達観して死を受け入れる者。
 奪われるばかりだった私が、未来を将来を存在を、世界から奪い取る。
 そうして、少しずつ私を取り戻すのだ。
 只々恐怖する者たちが、引き攣れた実に情けない悲鳴を上げながら砂から逃れようともがく。
 ぺきり、と砂を掻く指から爪が剥がれ、みしり、と骨が軋み、ごきり、と関節がズレていく。鼻や口から血泡が溢れ、白目を剥いた。
 あれ、場外乱闘アリなんだっけ? と、ふと思ったときには時すでに遅し。辺り一面おびただしい量の鮮血が飛び散っていた。
 そしてそれには勿論、階段を上ってきたナルトとシカマルも含まれている。
 昨日の病院といい今といい、さり気なく仲が良いよね君たち。

 人間が潰れて死ぬ音を、初めて聞いた。あんな躊躇無く人を殺す奴を、初めて見た。
 鼻腔を満たし、肺まで染み込むような濃厚な血の臭い。
 横目に見た通路の血溜まりには、つい先ほどまで自立して動いていたはずの人間が、まるで赤い水溜まりに打ち捨てられた人形のように、肢体を異様な方向へ曲げて転がっていた。
 中途半端に階段に足をかけたまま、身動き一つ出来ない。
 ぴちゃ、とその赤い水溜まりを平気で踏みつけるのは、サスケの対戦相手の我愛羅。
 たった今人を殺したとは思えない平坦さで階段を下りてくると、オレたちの前で立ち止まり、おもむろにナルトへと手を伸ばすと親指の腹で頬に付いた血痕を拭った。
「すまない、汚してしまったな」
 本当に悪いと思っているのか、その抑揚のない声からは窺えない。
 ナルトはされるがままに固まって微動だにしなかったが、我愛羅が踊場まで下りたところで我に返ったのか、傍まで階段を飛び降りると手を引いて無理矢理自分の方へ向かせた。
「っ……我愛羅! ――こっち見ろよ。……謝ってんなら、オレの目ぇ見て謝れってばよ!」
 有り得ない。マジでコイツ有り得ない。絶対頭がおかしいに決まってる。
 よりにもよって我愛羅だぞ? ついさっき人を殺して、多分何人ぶち殺しても平気な顔をしていられる奴だ。
 そんな奴を引き留めるとか、あまつさえも説教? 暴挙? つーか何でキレ気味なんだよ!! オレの方がキレたいっつーの、お前に!
 数転瞬、二人に何のアクションもなかったが、ナルトの手を払うように解くと我愛羅は階段を降りて行った。
 危険が去っていったことに、ぶわ、と全身に冷や汗が吹き出してへたり込む。試合や任務の時とは種類の違う嫌な汗だ。
 ナルトはしばらくそこに立ち尽くしていたが、とぼとぼと階段を上がるとオレの隣に座る。
「……どうした?」
 難しい顔をしているナルトに問うが眉間のシワが増えるだけで答えない。
 そう言えばナルトは我愛羅に目を見て謝れと言っていたが、それはつまりあの至近距離で我愛羅の目を見ていたという事だ。
 ――有り得ない。やっぱりコイツ有り得ない。
「あいつ、オレたちのことなんか全然見てなかった」
「……そうだな」
「オレたちじゃあいつの器は満たされないって事だよな……?」
「まぁ、だからこうして生きてるんだろうな」
 多分、前の二人がいなければオレたちがああなっていたのだろう。
 ナルトは難しい顔から真剣な顔に一変し、膝の上で拳を握ると立ち上がった。
「――シカマル……カカシ先生んとこ、行くってばよ!」
「……どうするつもりだ?」
「この試合を止める。あいつに……我愛羅にサスケを殺させたくないんだってばよ!」
 一目散に走り出すナルトには、イケてねー派の面影はどこにもなかった。


prev / next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -