15
 ナルトとネジの試合が始まった。
 接近戦を避けるためにナルトが影分身四体を出してクナイを手に突っ込ませるが、ネジの手練れた体術であっと言う間に消されてしまう。
『――意外だったぜ、ファザコンの我愛羅チャンが蛇ヤローに何もしねえなんてよォ―』
 例の悪寒と共に現れた守鶴が背負っている瓢箪の上に腰掛け、メタボな腹に邪魔されながら短い脚を組んだ。
 上半身を捻り私の頭にもたれて頬杖をつくその視線の先には偽風影、ゆらりと尻尾が揺れる。
「馬鹿言え、敵討ちでも期待していたのか? それに誰がファザコンだ、誰が」
 ネジが「現実を見ろ」と運命を語り、ナルトは「オレはあきらめが悪い」と影分身の数を増やした。
 あーあーあんなに影分身しちゃって、木を隠すなら森、本体を隠すなら影分身ってか。
 芋荒いの鮨詰め状態で次々と向かっていくが、ネジは後ろに控えるナルトに狙いを定めて突き進む。
 本体がやられたかと思いきや、実はネジの考えの裏をかいてワザと引かせていた影分身。群に紛れていた本体が殴りかかる。
 ……玉砕覚悟って、そんな覚悟をしてどうするよ。
『冷たいねェ……。でもお前はファザコンだろ』
「……違う」
 撫でつけるように低くなった守鶴の声。鼻突き合わせるように逆さまに私の顔をのぞき込む守鶴の目が、見定めるようにすっと細くなる。
 ニタァと口角を吊り上げたギザギザの大きな口が視界一杯を埋め尽くし、そのままバクリと飲み込まれてしまうのではないかと一瞬思った。
『違わないねェ。《父親》に対する《精神生活を左右する力をもつ無意識的な観念や記憶》なんて、立派なファザコンじゃねえか』
「その言い方だと万人が何かしらのコンプレックスを抱えているな」
 フン、と鼻で一つ嗤い、吐き捨てるように語勢を強めて言う。
 一度硬く目を瞑りゆっくりと開くとそこに守鶴の姿はなく、もうこれ以上話すつもりはないとの意思を理解したのか、それから守鶴が話しかけてくることはなかったが、耳のあたりに含み笑いが残っているような気がして小さく舌打ちをした。
 眼下の試合に視点を戻すと、ネジが八卦掌回天でナルトを弾き飛ばしていた。
 続けざまに自分の周囲を八卦に見立てた八卦六十四掌で猛烈な連続攻撃を叩き込む。全身六十四個の点穴を突かれて、ナルトは身を丸めて蹲る。
「くやしいか? 変えようのない力の前にひざまずき、己の無力を知る。……努力すれば必ず夢が叶うなんてのはな、ただの幻想だ」
 威圧感に満ちたネジの言葉。だがその言葉は無意識でネジが自身に向けた諦めでもある。
 チャクラの流れを止められ立つこともできないはずのナルトが、それに抗い立ち上がる。
「……ヒナタをバカにして落ちこぼれだと勝手に決めつけやがって! 何があったかそんなの知んねーけどな……他人を落ちこぼれ呼ばわりするクソヤローは、オレがゆるさねー!!」
 満身創痍ながら激しく言い立てるナルトに、額当てを外してネジは語り出す。例の事件と日向の憎しみの運命を。
 ……お家騒動ねぇ。白眼なんていう大層なモノを授かったんだから、持てる者の義務だと思っておけばいいじゃない。
 名門でも旧家でもない一般家庭出身の忍からしたら、贅沢にしか聞こえないと思うよ。
 それにそう言うデリケートな問題をこの他国他里の人間が大勢いる場でベラベラ喋るもんじゃないってのが判らないあたり、まだ子供って事か。
 ――何か、厭きたな。別に誰が勝とうが負けようが、どうだって良いんだよ。
 作戦通りにさっさと木ノ葉を崩してお終い。それだけだ。
 原作? そんなのもあったねぇ……。
 今はもう薄れつつある、漫画と呼ばれた白黒の画面。覚えている事柄はそう多くない。漠然と『知っている』と言う感覚が、大半を占めている。
 壁際に蹲り膝に顔を埋めて目を瞑る。自閉的な闇の中で段々と遠くなっていく環境音。体腔から滲み出す愉悦は、九尾のチャクラを感じ取って興奮している守鶴のものだろう。
 作戦が全部終わったら、フリーの忍になって、その日暮らしで旅をするのも良いかも知れないなぁとつらつら想像を巡らせながら、意識を深いところへ沈めていった。


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