13
 予選の試合後に焼肉の食い過ぎで腹を壊したチョウジの見舞いに木ノ葉病院に来たが、わざわざ買って持ってきたフルーツセットに、たまたま受付にいた医者からアウト宣告をされ処分にあぐねていると、看護師が名簿を見ながらナルトがいることを教えてくれた。
 三日三晩寝っぱなしだったらしいナルトが目覚め、その提案でチョウジの前で果物を食うことになり、めんどくせーと思いながら向かった。
 つーか三日三晩寝っぱなしって何したらそうなんだよ、とエロ仙人とやらの話を聞きながら角を曲がった途端それが目に入った。
 一瞬だけナルトと目配せし、フルーツバスケットも本も放り投げて走り出す。
 それは、とある病室に我愛羅が入っていく瞬間だった。

 余裕が、全部持ってかれた。
 影真似を解除されたときでさえ残っていた余裕が、全くなくなった。
 あいつの話を聞いて、誰もが言いそうな揶揄を口にしただけなのに、「空気」なんてレベルをぶち破って、突然「世界」が変わった。
 恐怖なんて感じる余裕すらなく、只、死を思った。
「死」が目の前に居る。「死」がそこに在る。「死」が、こちらを見ていた。
「『歪んだ』愛情? ……お前は愛情が何か知っているのか? 歪みが何か知っているのか? では歪んでいない『正しい』愛情とは? お前は、知っているのか?
 ――確かにろくな育ち方はしていないだろうな。甘やかされ、望めば大抵のモノが与えられた。それが愛であり愛情だと思っていた。
 だが、否定された。愛も愛情もこの手にあるモノこの目で見える世界、全てに否定され拒絶された。では私は何のために存在し生きているのか、そう考えた時、答えは見付からなかった。
 それでも生きるには理由が必要だ。只々絶望に打ちひしがれていては、死んでいるのと同じだ。
 取り巻くモノが無くなれば何もない空っぽの自分。私はその空の器を満たすために他者を殺す。
 恐怖と絶望に見開かれた瞳には私しか映らない。全てから拒絶された私が、逆にそいつの世界では私しか映らなくなる。私が世界にされたことを今度は私がやる番だ。そう結論し、ようやく生きている理由を認識出来るようになったのだ。
 丁度里から危険物と判断され、上手い具合に暗殺者(殺すべき他者)には事欠かなかったからな。
 私は永遠に満たされぬ器。注ぎ続ける限り、私の存在は消えない」
 圧倒された。何を言っているかなんて解らなかった。
 愛を否定しながら愛を額に刻んで主張している矛盾が、我愛羅そのものなのだと漠然と思った。
 こいつが吐き出す言葉に、歪められた人形のような顔に、自分では理解し得ない別の次元を感じた。
 じりじりと後退る隣のナルトを見て、愕然とする。
 ――コイツ、おかしいんじゃねぇか?
 なんだその目は、なんだその顔は、何で、何で『普通に』恐怖している?
「――、ナル……」
「そこまでだ!」
 開けっ放しだったドアにガイとか言う上忍が現れ、飽和していた「世界」に「空気」が雪崩込んできた。
 異変を感じ取って来たのか元々来る予定だったのか知らないが、正直限界だったので有り難――待てよ、この二人って試合の後何か言い争っていなかったか?
 ……やっぱ有り難くねえ!
 安心しきっていた心臓が再び鷲掴みされ身構える。
「本戦は明日だ、そう焦る必要もないだろう。それとも、今日からここに泊まるか……?」
 予想に反して我愛羅は何も答えず何のアクションも起こさず誰にも目もくれず、ふらふらした足取りで病室を去っていった。
 途端に膝が折れ情けないことに座り込む。
「大丈夫か? 何があった」
「え、いや……よくわかんねえっす……」
 本当に何がなんだかよくわからない。
 濃密だったのか希薄だったのか、長かったのか短かったのか、起きたら見た内容を忘れて思い出せない夢のような感覚。
 狐につままれた、いや、狸に化かされた?
 もう二度とごめんだと、ふと、立ち尽くすナルトに目をやると、苦しげに眉根を寄せて我愛羅が出て行ったドアを見詰めていると思ったら急にキッと顔を引き締めると、修行だと叫びながらどこかへ走り去って行く。
「おいナルト! 退院手続き……どうすんだよ……」
 その時のナルトは、自分には分からない何か強い意志と決意を感じさせる色を、瞳に宿していた。


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