12
 ――あー……疲れた。何かまた変なスイッチ入っちゃったけど、何とか脱出できた。
 帰路はもう歩く気力がなかったので、砂漠浮遊でチャクラ消費するのを覚悟して漂うように帰ってきました。
 もー、写輪眼ズ嫌い。カカシとかサスケとかサスケとかサスケとか、苦手なんだ。接し方が分からないよ。
 乗った砂の上で膝を抱えてぶつぶついじいじボヤいていると、木ノ葉病院の看板が見えてきた。
 病院、病院か……。少しばかり嫌なことを思い出しかけたが、そういえばリーは平気かなと思考をすり替えた。
 悪気はなかったんだけど正直ちょっとやりすぎたかなって思ってるよ、本当に。
 あの性格じゃ庭で動き回っていそうだと行ってみたが、いるのは散歩途中の人や付き添いの看護師だけ。
 ……まさか、殺しちゃってないよね?
 ふっと湧きあがってきた可能性に背筋が寒くなった。
 それは、まずい。とってもまずい。いじいじしてる場合じゃない!
 私が様子を見に行くのもまずかろうと第三の眼を使おうと思ったが、ここにいる時点で第三の眼を使おうが私自身が行こうが然程大差ない事に気付いたので、そのまま屋上に降りて病院内に入る。
 階段を下りて左右を見渡したが、思いのほか中に人はいなかった。人の気配は多数あるものの、タイミング良く接触しなかったようで見咎められることはなかった。
 病室のドアの横に掲示されているネームプレートを見ながら歩き、ロック・リーの名前を認めると、他に人がいないのを確認してそーっと入る。
 そして、それをチョウジの病室に行こうとしていたナルトとシカマルに見られていたとは、知る由もなかった。

「こんなとこで何しよーとしてんだコラ!! ゲジマユに何しようとした!」
 リーの眠っている顔を覗き込んだところで急に体が動かなくなり、は!? と驚愕した瞬間に殴られた。
 思いっきり、ナルトにだ。
 えぇぇー……。何もしてないのに殴られたんだけど。
 砂の鎧が頬から剥がれ、口の中が切れたのか微かに血の味がする。
 いや、それはいい。百歩譲っていいとしよう。
 よろけた身体が影真似の術の影響で勝手に立て直り、金と黒に向き直る。
 ――何で今砂の盾が発動しなかった?
 これは原因次第では私の命の危機と直結する忌々しき事態だ。
「お前に言う必要はない……」
 本当なら「別に」とその一言に全ての返事を凝縮した素晴らしい言葉で答えたいところだが、『彼』はそんな現代っ子みたいな返答はしないだろう。
 そう考えた結果がこれだったのだが……どうやら危害を加えに来たと誤解されたようで、二人の顔が険しくなる。
「こいつに個人的な恨みでもあんのか?」
「そんなものは無い」
 どうして砂の盾が発動しなかったのか、第一にチャクラ不足だがこれはない。
 いくら砂漠浮遊で消費していたとしても砂の鎧は発動してるし、あれがガードできないほどチャクラが枯渇することは滅多にない。っていうか一度もない。
 そして第二にシカマルによる影真似の術の影響だが、これが有力っていうか、原因だろう。
「お前すげー自己中だな、ろくな育ち方してねーだろ!」
 うわぁ……否定できない自分が悲しい。
 ……あーあ、どうしよ。本格的に悪者扱いされてね?
 やっぱり来るんじゃなかった。殺しちゃってたら如何しようとか思うんじゃなかった。
 もう帰りたい、いや帰ろう。本戦始まるまでベッドでカタツムリしてよう。
「私の邪魔をするなら殺す」
 二人と睨み合い会話しながら頭の別のところで考える。
 影真似は自分の影と相手の影を繋げて、相手の身体の自由を奪う。
 影がチャクラを含んでいることは明白で、影を繋げる目的は相手の影と自分の影を混同させることで相手に自分のチャクラを流し込み易くするためだ。
 私だって腐っても天才の端くれ、チャクラコントロールには自信がある。
 影によって流し込まれたシカマルのチャクラで混線した経絡系、神経系を自分のチャクラで整頓し、影真似と同じようにシカマルのチャクラを影に押し返していく。
「何だと! やれるもんならやってみ……」
「オイ、よせナルト!」
 強制的に影を引き剥がされたことに驚いたのだろう。シカマルの顔が引き攣り体が強張っている。
 だがそこはシカマル、何か思いついたのか気を持ち直し余裕の表情を作る。
「お前が強いのはそいつとの試合で分かってる。けどな……オレもこいつも、それなりにはやれるつもりだぜ」
「それなり」に「つもり」か、随分曖昧で希望的だな。はったりなのがバレバレだ。
「俺たちはまだ予選でとっておきは見せてねー! しかも二対一だ。分が悪いのはそっちだぜ。言うこと聞くんだったら……」
「もう一度言う。邪魔をすれば殺す」
 ああクソっ! 帰るから退いてくれと言えない『彼』の性格が恨めしい!
 無理だよね知ってるもの。『彼』だったら全員全部全滅ですものね、ええ。
 ……何か苛々してきた。
 何だこいつら面倒臭い、私の帰りたいオーラが見えないのか!? 目視しなくて良いから感じ取れ!
 私の苛々に呼応するように瓢箪から砂がうねうねし始める。まだ動きがぎこちないが、影真似の影響はもうないみたいだ。
「お前なんかにオレは殺せねーよ! オレは本物のバケモノ飼ってんだ。こんな奴には負けねー!」
 おお、同感だ。気が合うな。
 私にナルトは殺せない。何故ならこの世界は主人公(うずまきナルト)を軸にして回っているからだ。ナルトがいなくなった世界は存在すらできずに消え失せるのだろうなとすら思っている。
 わぁ凄い。私世界の中心と対峙してる!
 とか馬鹿な思考は置いといて、このバケモノ飼ってる発言にIQ200のシカマルくんは何も思わないのかね。
 頑張れ、頑張るんだ! スレナルの相棒の名を欲しいままにしていた君ならきっと気付けるさ!
 おっとまた脱線した。
 えーと、何だっけ。あー……待てよ。何かこんなシーンあったな。生い立ちを話すんだっけ?
 うぇ、マジでか。プライバシーの叩き売りだな。不幸自慢は犬も食わないんだぞ!
「……それならば私もバケモノだ。母の命を奪い生まれ落ち、最強の忍となるべく忍術で砂の化身をこの身に憑かせた。……私は生まれながらのバケモノだ」
 大体さ、バケモノって自分がバケモノだって自覚ないよね。
 他人がそう言うから、へぇ自分ってバケモノなんだって思うわけで、This is a pen.(これはペンです)You are a monster.(あなたはバケモノです)みたいな?
 例え分福茶釜な狸の守鶴がこの身に封印されていようとも、それが常で当たり前という基盤の上に世間があるわけで、正直バケモノと言われ馴れていてもピンとこない。
 まあ何が言いたいのかって言うと、バケモノをバケモノたらしめているのは周りの人間だってコト。
「……生まれる前に取り憑かせる憑依の術か、それが親のすることかよ」
 憑依、封印、まあものは言いようだな。
 てか、油女一族も身体に「飼ってる」カテゴリーするとバケモノに分類されるんじゃ……げふんげふん。
「歪んだ愛情だな」

 ――。

「……お前たちの物差しで測るな……」
 カチリ。何かのスイッチの様な音が、頭の隅で鳴った。


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