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 予選が終わり、「公正公平を期すための相応の準備期間」と名目した各国大名や忍頭たちへの招集日程稼ぎに与えられた一ヶ月。本当に暇だった。
 バキから後に「木ノ葉崩し」と呼ばれる作戦を伝えられた他は、砂隠れの里に帰るでもなく(バキは「音」との決行予定書を持って帰ったが)、今更慌てて詰め込む知識も技術もなく、毎日毎日いかに暇を潰すかという日々。木ノ葉の大凡の観光名所や私的な見所は試験が始まるまでの七日間で既に見終わってしまっていた。
 ……そうだ、覗きに行こう。
 脳内で豆電球が瞬いた。
 一応言っておくが自来也的なのぞきではない。
 対戦相手を探るなとは言われてないもんねーと、だらだら茶を啜っていた甘味処の勘定を払い、意気揚々と砂を飛ばして居場所を探る。
 砂越しに伝わる情報で目当ての人物を探り当てたのはいいが、チッ、結構遠いな。まあでも暇を潰すには丁度いいかと、これまただらだらと目的地に歩き出した。
 たどり着いたのは風の国を思わせる岩山や岩壁がそびえ立つ荒涼とした場所だった。
 水気のない乾いた匂いの空気。枯れているのか生きているのか判断に困る植物が肩身狭げに生え、暴力的な日差しがないのが風の国の砂漠との違いだろう。
 第三の眼を回遊させ、目当ての人物、サスケとカカシを見付ける。
 気配を消して近くの岩に身を隠し、片目を閉じて第三の眼で覗きを開始した。
 左右で違うモノを見ているのに脳が混同しない辺り、人間の情報処理能力は凄いよね。
 おーおー、やっとるねえ……。
 千の鳥の地鳴きにはまだ程遠い濁った不規則な音が辺りに響く。
 えーと、何だろう……ハエ?
 時折破裂するような音が混じり、聞いているだけで痛いような気がしてきて手をさする。静電気が冬将軍の辻斬りなら、あれは砲撃と言っても差支えないだろう。
『彼』がどうだったかは知らないが、私は風・土・雷の性質変化を持っているので、あわよくば千鳥のやり方を覚えようかと思って来てみたはいいが……すっげぇスパルタだなカカシ先生は。
 平生のやる気のなさそうな感じは鳴りをひそめ、イチャパラはポーチの中らしい。
 しばらく二人の修行を見ていたのだが――ナニコレ、超むずいんですけど。
 結論、はたけカカシとうちはサスケは本物の天才だった。
 それぞれの性質に適した印を組んで術を発動させるのとは大違いで、中々に望む性質が形態変化してくれない。
 おかしいな。雷の性質変化があるのは雷遁系の術を使えることから間違いないのに、この手が纏うのはどういう訳か風ばかり。
 ……なして? あれか、割合が一番多い性質しか形態変化してくれないとかそういうオチか?
「そんな気配出してちゃバレバレだって、出て来なさいよ」
 首をかしげるばかりの思考に届いたカカシの声にはっとする。
 ――やっべ、夢中になって気配消すの忘れてた。
 やだなーやだなー、このまますっとぼけて帰ろうかな……。
 岩越しにでも感じられるカカシの視線から退場しようと足の筋肉に脳が命令を出しかけた瞬間、
「……サスケ。試し撃ちしたくない?」
 ――カカシ先生は大変ご立腹のようです!
 わかった、出る。今出るから試し撃ちやめれ。
 確かに見つかったのは私の落ち度なので、不本意ながら渋々二人の前に姿を現す。
 さっと見た感じでもそこらじゅうの岩々に重機を使っても出来ないような抉れた穴が開いていて……君たちはこれを人体に、というか私にやろうというのかね。忍の思考回路、恐ろしや。
「……君か。本戦前にこんなとこまで嗅ぎつけて来て、一体何がしたいの?」
 ぴりっと殺気が肌を弾いたが、サスケには警戒の色しか見られない。と言うことはサスケが感じない程度の殺気を向けられているのか。流石木ノ葉一の技師、器用だな。
 て言うか、何て答えればいいんだよ。まさかバカ正直に千鳥のやり方を見に来ましたとは言えないしなぁ……。
『彼』みたいにターゲットロックオン宣言するか? サスケに? ……アホじゃなかろうか。
 何かもう考えるのすら面倒臭くなってきた。取り敢えず、きりりとしたカカシ先生は、とってもかっこよかったです。


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