08
 第九回戦はガイの生徒のロック・リーと彼女――我愛羅の試合だ。
 ガイは暑苦しいが優秀な忍だし、リーは去年の新人下忍の中ではネジに続く注目株だった。瞬殺はないとは思うが、何にせよ我愛羅は得体が知れなさ過ぎる。
 背負っている瓢箪の栓を飛ばし付けるという、挨拶ともとれる挑発にリーは士気を上げたようだが、一瞬、ほんの一瞬、我愛羅が幽かに笑った。
 その微表情に嫌な予感がする。
「ガイ、こんなこと言いたくないけど……いつでも止めに入れるようにしておいた方がいい」
 ガイは一瞬不服そうな顔をしたが、オレがひやかしで言っているんじゃないとわかると神妙な面持ちで一つ頷く。しかし己の生徒を信じていると、意志の強い目で大丈夫だと言いきった。
 リーの攻撃を瓢箪に入っていた砂でいなして防いで、我愛羅は腕を組んで仁王立ちのまま動かない。
 砂か……変わった術を使う。まるで主人を守る流動性の生き物だ。リーも手こずっているようで、距離をとった。
 忍術も幻術も使えない、故に体術を特化させたのは理解できる。だが、ガイが高らかに「外せ」と指示した重りの重さは尋常じゃなかった。あれはやりすぎでしょ。
 そして皆がそれに驚く中、我愛羅はやはり眉一つ動かさない。現時点では基本彼女の方から仕掛けてはおらず、只砂で攻撃を受け止めるだけ。
 ……あの微表情は見間違えなのか?
 重りを外してリーのスピードは格段に上がった。素晴らしいスピードだ、目を見張るものがある。――だが、心中に蟠(わだかま)るもやっとしたものが晴れないのだ。
 ついに砂では防ぎきれなくなり、リーの踵落としが我愛羅の頬に傷を作る。やった、と思ったのも束の間、ごっそりと感情の抜け落ちたような、我愛羅の諦めたような表情。
 何だ? 何故だ? 奇妙、奇妙、異常で異質。
「リー!! 爆発だぁー!!!」
「オッス!!」
 水を得た魚のように素早く動き我愛羅に拳を叩きこむ。会場中の誰もが入った、手ごたえありだと思ったに違いない。しかし、
「!?」
 徐に立ち上がった我愛羅の顔から砂が剥がれ落ち、その下の肌には傷一つなかった。
 ……砂を纏っていたのか……違和感の正体はこれか? 彼女の余裕はこれの所為なのか?
「それだけか……」
 砂を纏い直した我愛羅が呟く。厳しい表情のリーがガイとアイコンタクトをしてゴーサインが出るとバンテージを解き、一気に動いた。
 重量のある砂を纏った我愛羅を上げるために連続で蹴り上げ、十分な高さまで上がると彼女の身体にバンテージを巻きつけ拘束した。そしてそのまま回転を加えて地面に叩きつけるのだが、リーが痛みで顔をしかめた一瞬の隙を我愛羅は逃さない。
 土煙が晴れ、瓦礫の中にあったのは、抜け殻になった砂の鎧だけだった。
「いつの間に砂のガードから……リーがそんなことを見逃すはずが……!!」
「お前が目をつむって祈ってる時だよ。リーは一瞬身体の痛みで動きが止まった、その時だ」
 リーの背後の砂が盛り上がり、我愛羅が姿を現した。怒涛の砂の波が襲い掛かり、壁に叩きつけられる。追撃とばかりに砂がリーに向かっていく。
「蓮華」は足や身体に多大な負担をかける高速体術、本来禁止技にあたる。今頃体中の痛みで動くこともままならないだろう。あれでは嬲り殺しにされるのがオチだ。ガイには悪いが、止めに入った方が――
「木ノ葉の蓮華は、二度咲く!!」
「……!? お前まさか!」
「お前の想像通りだ」
 ガイだって馬鹿じゃない、物事の道理も分別も心得ている。表情の厳しさから言って自分が何をしたのか分かっているはずだ。だがそれでも、
「『裏蓮華』だけは教えちゃならん技でしょうが! ……見損なったぞ……ガイ!」
 下忍のあの子が『八門遁甲の体内門』を開ける? いくら才能があったとしても危険すぎる。
 あの子がガイにとって何なのか詮索するつもりはないし私情をはさむなとは言わないが、限度を超してる。
「お前が、あの子の何を知ってる……」静かな怒気を含ませてガイはそう言った。
 表蓮華で一の門・開門を開け、二の門・休門で異常な体力回復を見せた。そして三の門・生門、四の門・傷門を開けた。身体は赤く染まり、チャクラが湯気のように立ち上る。
 ……この試合が動くぞ!
 床を蹴るリーのあまりのスピードに石板が割れ、礫が飛散し土煙が上がった。蹴り上げられた我愛羅に砂の盾が間に合うはずもなく、四方八方から打撃をくらう。砂の鎧が剥がれていき、リーの腕の筋繊維が音を立てて切れた。
 あと一押しと思ったのかさらに五の門・杜門を開け、バンテージで我愛羅を捉え引き寄せると拳と足を叩きこむ。
 高速連続体術である裏蓮華、流石にリーの勝ちだと思った。しかし床に叩きつけられる筈だった彼女の身体は、実は砂で出来ていた瓢箪によって守られ、思ったほど効果が得られなかった。
 ハイリスクローリターン。――最悪だ、もう後がない。リーは手の内をすべて曝してしまった。
 砂の動きにリーが危険を察知し逃げるが、ろくに動きもしない身体では逃げきることが出来ずに、左手足を潰されてしまう。
 聞く者の生存本能に警鐘を鳴らす、リーの悲痛な叫び声が上がった。


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