05
「砂の餓鬼がオレたちに真っ向から挑んでくるなんてのはぁ……」
「愚かだねぇ……」
 第二の試験「死の森」にて巻物争奪戦が始まって約一時間。目の前には筆記試験会場で瓢箪を馬鹿にした「雨」のおじさんトリオが立ち塞がっていた。
 不快気に自分の眉間に皺が寄るのがわかる。後ろにいるテマリとカンクロウに見られないのが幸いだ。
 こんな表情、『彼』らしくない。
「……御宅はもういい。早くやろう、雨隠れのオジサン」
 正直言って我慢の限界だった。
『彼』の象徴である瓢箪を馬鹿にされ笑われ、あまつさえも開始二十分程から尾行された揚句、渋々相手にした途端「餓鬼が真っ向から挑んでくる」と言われたら、そりゃもう、キレない方が大変だ。
 殺す。絶対殺す。目も当てられないほど圧倒してぐちゃぐちゃにして殺す。
「おい我愛羅! 巻物の種類が同じなら争う必要は無いし、余計な戦いは……」
「関係ないだろ」
 そうだ、関係ない。種類が同じなら争う必要は無い? 余計?
 この兄は、まだこんな甘い言葉を口にするのか?
 種類が同じなら潰し合えば良い。気に食わないなら殺せば良い。
「目が合った奴は、皆殺しだ」
 だって私は、『砂瀑の我愛羅』なのだから。

 ヤ、ヤバイ……早く逃げるぞ! 見付かったら殺される!!
 巻物を余計に頂いて、脱落するチームを増やす。そんな軽い気持ちだった。
 それだけだったはずなのに、想像以上に砂隠れの我愛羅とか言うチビはヤバかった。
 仕込み千本をあの胸糞悪い臭いのする砂で全て防いで無傷な上、リーダーと思われる人物を躊躇いなく握り潰し、巻物をやるからと慈悲を請う残りの二人も同じく圧倒した。
 血雨の降り注ぐ中、潜んだ心許ない茂み越しに、血雨を被らないように差した傘から覗く翡翠色の双眸が、こちらを見た気がした。
 ぞわり、と全身の毛が逆立ち嫌悪と悪寒が脊髄を這い上がる。
 ヤバイヤバイヤバイヤバイ……!!
 一刻も早く逃げなければという思いと裏腹に、今少しでも存在をあいつに知らせるような事をすれば確実に殺されるという確信があった。
 喚き散らして尻絡げて逃げ出したい衝動をギリギリで抑える。ヒナタとシノを横目に見ても同じような感じで、体は小刻みに震え、こめかみには脂汗が滴る。
 何か言い争いが聞こえるが耳に入っても脳が言語として理解しない。
 甘かった。舐めていた。大きな失敗もなく任務が上手く行き過ぎて、過信していた。中忍なんて楽勝だって。――上には上がいる。
 まるで、化け物だ。

「――聞こえなかったのか? 目が合ったやつは、皆殺しだ」

 びくりと肩が震えた。喉が引きつり、もがり笛のような音が漏れた。
 もう駄目だと思った。風に混じる砂が、血の臭いを運んで恐怖を更に煽る。
 行動を起こしたのは、シノだった。
「行くぞ、キバ、ヒナタ」
「は? シノお前死にてぇのかよ!」
 声を出すことすら憚られるのに、シノは腰の立たないヒナタの腕を掴んで立たせようとしていた。
「今なら無傷でこの場から去れる。何故なら彼女は目が合ったら殺すと言っているからだ。端的に言えば、姿さえ見せなければ見逃してやると言っているんだ」
「でもよ……」
 そんなうまい話があるだろうか。
「行くぞ、キバ、ヒナタ」
 有無を言わせない雰囲気で木々の間を跳躍するシノをヒナタと一度顔を見合わせてから追う。
 シノの言った通り、砂の奴らは誰も追いかけてこなかった。
 血の気の失せた二人の顔、自分もきっと似たようになっているのだろう。
 ……チッ、リーダーはオレだっつーの。


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