02
「――い、おい、我愛羅! 聞いているのか?」
町並みから意識を戻し、顔の半分が布に覆われている上忍バキに視線を向けると、睨み付けた訳でもないのに怯まれた。
「で、では俺は中忍試験本部に寄ってから直接宿泊所に向かう。各自自由行動にはするが、呉々も問題は起こすなよ」
足早に去っていくバキを目で追いながらこれから起こるであろう事に思いを馳せる。
やはり自分が止めなければならないのだろうか……。
道すがら人知れず溜息を吐き、すでにもういなくなっていた二人の元へ向かう。
案の定、カンクロウとナルト達がもう既に揉めていた。
――原作突入、か……。
それにしても、初めての試験でテンションが上がっているのは解るが、白昼堂々往来で忍ともあろう者が何をしてるんだか。軽率な行動はホントやめて欲しい。
みんな死ねばいいのに――とか本気で思うと御砂様が勝手に殺してしまうのでビークール。
「カンクロウ、やめろ」
瞬身の術で割って入り、カラスを使おうとしていたカンクロウの手を掴んで軽く睨む。
木には登らない。絶対に登らない。
大体、あの木に登るには道を回り込まないといけないし、サスケじゃあるまいし、意味不明なパフォーマンスもポーズもしない。
「喧嘩で己を見失うとはあきれ果てる……。何しに木ノ葉くんだりまで来たと思っているんだ……」
後ろからの複数名の視線が痛い。寧ろサスケの視線で後頭部が禿げそうだ。
「聞いてくれ我愛羅、こいつらが先につっかかってきたんだ……!」
弁解は罪悪という言葉を知らないのかこの兄は。見苦しい。
焦った顔のカンクロウの後ろでテマリがいわんこっちゃないと肩をすくめている。
「黙れ、里の面汚しめ……殺すぞ」
止めなかったテマリも連帯で同罪だ。
二人にしか見えないように砂をちらつかせれば即座に謝る姉と兄。
情けない、年長者の威厳はないのだろうか。『彼』みたいに恐れられることはあまりしてない筈なんだけど、一々怯えた表情といい態度といい、ここまでヘコヘコされると――イラッとする。
「君達悪かったな」
これ以上苛々すると真面目に御砂様が暴れかねないので、ナルト達に向き直り謝罪を述べる。
状況がよく呑み込めていないアホ面のナルト、状況がよく呑み込めていないながらも必死に頭を回転させているであろうサクラ、サスケに目をやると睨まれ、木ノ葉丸達は突然の乱入者にビビり気味だ。
「早く着きすぎたとは言え、遊びに来たわけじゃないんだからな……行くぞ」
お利口さんなデコリンちゃんが何か言い出す前に、さっさと宿に行ってダラダラしたい。
そんな訳で踵を返し足早に去ろうとした矢先、
「ちょっと待って!」
デコリンちゃんこと、サクラに出端をくじかれた。振り向きたくない面倒くさい。
「――先に宿に行ってる」
言外に、おまえ等で相手しろよと仄めかし、歩き出そうとした初っ端、
「おい!」
木から降りたサスケにまたもや出端をくじかれた。泣きたい。ログアウトさせてくれ。
「そこのひょうたんの奴……名は何て言う?」
「……先程カンクロウが言ってただろう」
まぁ、何だ。名乗りはお互いを認識し合う第一歩だが、要するに名乗りを拒絶することで関わる気は更々ないんだと言うアピールだ。
目もくれずに今度こそその場を後にした。
その後、書店にて風の国では売っていない自来也著の「ド根性忍伝」を発見購入し、レジのお姉さんに「中忍になれるといいね!」とウインクされたが、本屋のお姉さんでも知っているのに試験の存在すら知らなかったナルト達って本当に忍なのか甚だ疑問だ。
その後も方々様々な人から激励を受け、敵に塩を送ってどうする! と少しだけこの里の人間性が心配になる。
試験が始まる七月一日まで、あと七日。なにすりゃいーのさ。
追記:「ド根性忍伝」って十数年前の発行ですから、多分絶版になってますよね……。女主が立ち寄った書店は自来也の贔屓の書店で、特別に委託を引き受けていたって事にしておいて下さい。
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