01
荒々しい岩山、漠々たる砂砂漠に描かれた風紋、風化により複雑に侵食された崖。風が運ぶ砂が蓄積されて出来た巨大砂丘群。環境を考慮しなければ実に美しい風景だ。
「暑い……」
口から出た言葉は思いの外苛立たしげな色をしていた。
視界の端で先を歩く黒子のような格好をした兄から怯えの混じる気遣わしげな視線を感じたが、意識的に無視をさせてもらった。
只でさえ暑さに参っているというのに、あんな視線を向けられては不快指数が上がらない方がおかしい。苛立つ因子を少しでも減らしたいと思うのは当然だ。
何故こんな思いをしてまで歩かなければならないのだろう。
夜は寒いくせに昼は馬鹿みたいに暑い砂漠を、担当上忍師やチームメイトである姉兄に付き合って目的地まで徒歩三日。
自分一人なら砂に乗って一日も掛からないのに! とボヤきそうになるが、そんな気力もない。
日焼けしにくい肌は日光を嫌い、下手をすると火傷のようになる。
直射日光に肌を晒さないように羽織った薄手のマントのフードが先程から何度もずり下がってきて視界にちらつき、靴の中にがっつり入り込んだ砂にも苛立ちが増す。
何故爪先の出ている靴を履かねばならないのかさっぱり解らない。急所なのだから忍は安全靴を履くべきだ!
身を守る衣類に敵愾心を抱いても仕方がないとは理解しているが、煩わしい事に変わりはない。
砂漠の緑化について考えながら現実逃避をして、漸く辿り着いた『火の国・木ノ葉隠れの里』。
その巨大な壁門には左に「あ」右に「ん」上に「忍」とデカデカと書かれていた。
――ついに、ここまで来てしまった……。
記憶通りの面構えに、どうせなら真っ当に「阿」「吽」と書けばいいのにと如何でも良い事を思ったが、其処がやはり漫画家と凡人のセンスの違いなのだろうと結論付け、各々門番に許可証を見せながら里に入る。
自分達の住む『風の国・砂隠れの里』の乾いた匂いとは違う、土と緑の匂い。日光を照り返すものが余りないのか、心なしか光が柔らかい気がする。
フードを外せばより身近になった外気が耳を掠め髪を撫でる。
正面奥に見えるのは歴代火影たちの精悍な顔岩。その下には『火』を掲げる火影邸。砂隠れの里の「The 砂の城」といった整然とした街並みも美しいが、増改築を重ねに重ね、まるで里全体が一つの城の様になった雑然とした街並みも味わいがある。
くだらない事故で死んで早十三年。この世界ではなくこの里をアウェーとして感じている自分に気付き、悔しい様な悲しい様な複雑な気分になった。
着々とこの世界に定着しつつあるのだと、自分はこの世界の人間ではなかったのだと実感させられる。
この世界が何なのか気付いて約十二年。それに苦悩できるような余裕は与えられなかった。
自分が何なのか思い知らされ、生きることに必死で、生活することに必死で、『彼』の代わりなのだと判っていても深く考える事はしなかった。
動植物の自然の匂いや里の人々の生活の匂い、生きた匂いの濃い風が鼻空を擽る。見渡す町並みは見慣れないが知っていて、やはりここは自分が生まれ育った世界とは違う世界なのだと、また一つ、希望的観測が絶望にシフトした。
この景色を『彼』も見たのだろうか。砂と岩石ばかりの里で育った『彼』は、一体何を思ったのだろう。
自分と同じようにサボテンではない緑に焦がれただろうか、光の柔らかさに眼を細めただろうか。
兵器として産まれ、兵器として在る事を望まれた『彼』は、一体……。
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