08
 私のやるべきことは決まった。勿論、原作の回避だ。いかに自分が人畜無害な人柱力であるかを、周囲にアピールしなければならない。
 幸いに、不眠症という副作用と『何』かの存在は常に感じているが、今の所暴走することも誰かに危害を加えることもしていない。つまるところ、『環境』として意識の表面に上げなければ済む程度なのだ。
 まず思いつく有効なアピール方法とすれば、やはり同年代の同性と連むこと。特に女子は集団生活の中では政治家並に徒党を組まずにはいられない生き物だ。アピールにはもってこいだろう。
 そんな訳で、
「アカデミーに行きたい」
 そう言っただけなのに、夜叉丸は背後にピシャーンと雷鳴が轟きそうな凄い顔で固まってしまった。
「夜叉丸……?」
 おーい、と顔の前で手を振ると、はっと我に返ったのか、ガッと両肩を掴まれ、ずいっと顔が近付けられた。
「ど、どどどどうしたんですか? 協調性のきの字もない我愛羅様がアカデミーに行きたいだなんて……!」
 失礼だな。否定出来んが。
「駄目?」
「っ……駄目じゃないです、駄目じゃないですよ! 私、風影様に許可貰ってきます! 任せて下さい、駄目だなんて言わせませんっ!」
 夜叉丸はその日のうちに風影から許可を貰い、早々に私のアカデミー入学が決まった。
 中途半端な時期だったらしいのだが、そこは風影の子供という立場とコネクションをフル活用し、編入に必要な軽い筆記や実技も無事にパスした。
 始めの頃は皆怖がって近寄ってこなかったのだが、クラスに一人は怖いもの知らずがいるもので、その怖いもの知らずが今では一番仲の良い友達だ(クラスに馴染めるあたり、私の精神年齢は意外と低かったらしい)。
 授業を受けていて判ったことは、存外チャクラコントロールが得意だということ。それにピンときた私は、我ながら単純だとは思うが、夜叉丸と同じく医療忍者を目指すことにした。
「医療忍者になるんですか?」
「うん。人柱力って人よりチャクラが多いじゃない? だから長い時間活動できるかなって」
「我愛羅様ぁー!」
 夜叉丸は私が何をしても手放しで喜んでくれた。そのことをとても嬉しく思う反面、この親バカならぬ叔父バカっぷりは大丈夫なのかと心配になった。
 いい歳なのに女の気配もなく任務は里内のものばかりで正に主夫。
 そして思ったのだ。夜叉丸が叔父バカになるほど、私の社会性は破綻していたのかと。

 そんなこんなで、いつの間にか私は七歳の誕生日を迎えようとしていた。
 そしてそれは『母親』である加流羅の命日でもある。
 しーんという音が聞こえそうなほど静まり返った墓地は月明かりに照らされて、墓石群が白く浮かび上がり寂寞たる深夜に荘厳な遺跡のような雰囲気を醸し出していた。
 場所は知っていたが実際に来るのは初めてだ。
 誰もいない深夜の墓地なんて不気味そのものだが、なぜだか不思議と怖いとはちっとも思わず、どこか郷愁に近いものすら感じていた。
 彫られた名前を確認し立ち止まる。墓石自体は周りのものより少し立派かなと思うくらいで、四代目風影の妻の墓とは言われなければ分からないだろう。
 ここに、『母親』がいる。
『母親』って何だ? 子供を産んだ大人の女の人? 大人でなくても子供は産めるし、子供を産まなくても母親にはなれる。じゃあ『母親』って何? 父親と何が違う?
 そもそも私は墓石か写真でしか『母親』を見たことがない。
 ……お母さん、母上、ママ、お袋、
「――母さま」
 口に出してはみたが、まるで余所余所しい、音を只繋げただけの知らない国の知らない単語のようだ。
 何だこの遣る瀬ない違和感。もっと別の所で仕事しろ。
 と言うか自然と「母さま」って口に出してしまったが、私に似合わな過ぎだろ。
「眠れないのか」
 夜のしじまに響いた声の方を向くと、風影がこちらに向かって、いや、妻の墓に向かって歩いてきていた。
 途端に心臓がぎゅうっと掴まれたように息苦しくなった。体が畏縮して硬直し、思考が絡まりすぎて真っ白になる。
『父親』に対する苦手意識も、ここまでくれば最早病気だ。
 いかに上手くフェードアウトするかについてガチガチの脳味噌をフル回転させていると、
「我愛羅」
 風影がおもむろに拳をこちらに向けて伸ばした。殴られるわけではないと解っていても思わず肩が跳ねてしまう。
 戸惑いながら顔を窺い見ると、手を出せと目で言われて恐る恐るその下に受け皿のように手のひらをやると、小さな物が落とされた。
「加流羅のだ。お前が持っててやれ」
 手の平に転がるのは赤い石のピアスだった。
 摘まんでじっくり見てみるが、何かの呪印が刻まれているわけでもなく特に不審な点はない。本当に只の装飾品としてのピアスだった。
 何がなんだかサッパリで頭上に大量の疑問符を浮かべながら混乱の坩堝(るつぼ)に陥っていると、わさわさと頭に重さを感じた。
 遠ざかる背中を見詰めながら、もしかして頭を撫でられたのか? と気付いてしまっては、じわじわと迫り上がるくすぐったさを自覚しないわけにはいかなかった。

「我愛羅様何か良いことあったんですか?」
「え、な、何で?」
「顔がにやけてます」
「!!」


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