リク | ナノ
 冬の暮…19


都心の熱気ある賭場から一歩外に出ると、冷たい風が染みた
アカギは身震いを一つして隣を見やる
水野も襟巻きに顔を埋めて寒そうにしていた


「冷えるな」

「ええ」


水野は着物の上に暖かい外套を着て、手袋までしていた
普段は素足て履いている下駄も足袋と草履になっている
水野に衣服の事は言われるので無頓着なアカギもコートを羽織っていた
裏路地を出ると街頭や其処此処の店の明かりが大通りを柔らかく照らしていた
行き交う人々は浮かれている
百貨店の店先にはもみの木が、綿やクッキーを吊り下げて佇んでいる


「クリスマスだったか」

「え…ああ、通りで」


狐は歳時には詳しい割に海外のイベントには疎い
13の時分にも水野の家でのクリスマスは覚えがなかった
サンタの帽子を被り、店頭に立つ女性店員の足元が寒そうだ
流石都内だけあって、並木道は電球で装飾され、きらきらと輝いていた
フィラメント特有の光が暖かみを産み出している
木の下はカップルばかりだ
煌々とした人だかりの中を淀みなく歩いていく
視線は自然と宙に浮いた


「綺麗ですね」

「こういうの好き?」

「たまにはいいですね」


結局、自分達の生きていく場所はもっと薄暗いところなのだけれども。
ふわふわとした空気に触れるのは嫌いではない
周りの人間を慈しみたくなるのだ
無意識なのだろうが、少し微笑んで辺りを見ている水野をアカギは暗がりに引っ張り込み、自分に向き直らせた
突然の出来事に水野はアカギの様子を見上げている
水野に顔を寄せ、躊躇わずに口付けをした
唇は冷たいが艶々として、氷菓子を食んでいるようだ
触れるように唇を合わせ、少しするとまた離れていく
肩に置かれた手は水野の背中に回り、抱き寄せる
アカギの腕にすっぽりと収まってしまった
厚手の布に埋まってふかふかだ


「じゃあこれは」

「…あーたは」


時々大胆なことをする。
アカギは何も本当に水野に口付けをしたくてしている訳ではないのだ
この狐がどう出るのか、それを知りたいという好奇心がアカギの元来の「らしさ」を押しやるのだ
アカギ自身の自分を捨てることが出来るという性質も手伝っていることは確かである
要は真面目にからかわれているのだ
それが気にくわないと水野も仕返しをする


「少し屈んでくれませんか」

「うん?」


不思議そうにしているアカギの重心が下へ移動する隙を狙って押すと、軽くバランスを崩してすぐ後ろの壁に凭れ掛かる体勢になった
一気に距離を詰めて、ぴったりとアカギにくっつくと耳に舌を這わせた
内部の熱い粘膜が耳を這う
厭らしい音が振動となってアカギの左耳に押し寄せた
アカギの腰がぞわぞわとした感覚に浮いた


「あんたね」


アカギの照準が水野に定められた
水野の手を取ると足早にその場を後にする
きっとこの後は只では済まない
この段になっていつも水野は嗚呼、やらなければ良かったと思う
しかし、自分も子供っぽい対抗心があるのでアカギがちょっかいをかけてくるとやり返してしまうのだ
それならばいっそ楽しんでしまえという考えに至るまでが一連の流れだ

人気の無い暗がりを進み、アカギに半ば強引に連れて来られたのは近くの安宿だった
水野を逃がさない様に手は離さないまま、受付を済ませ部屋へ急ぐ
格子戸を開けるとぴったりと並んだ敷き蒲団が敷かれている、連れ込み宿である


「あら」


ぽいと布団に放り投げられ見上げると、コートをその場に脱ぎ捨ててアカギが迫って来ている
時計を見ると9時になっていた


「いけない」

「え」


はっとして前触れなく水野は立ち上がった


「幽遠寺さんに今日は九時半にお呼ばれしているのでした」


此処で嘘ならば狐は嘘であることを誤魔化さない
にやにと嫌みたらしく笑っているだろう
本当にあの若くして組を率いている青年と約束をしているのだ
流石のアカギも口をあんぐりとさせているうちに狐はさっさと出ていった
気がついた時には戸の閉められる音が背後で鳴った


「…クク」


残されたアカギは次に会った時、狐をどう料理してやるか、その考えに執念を燃やしていた






狐がアカギ19をとても困らせる話

アカギを困らせる方法、色々考えた挙げ句にやっぱりお預けが一番男性としてしんどいのでは無いかという短絡的考えに至りました。
時々アカギと狐にはラブコメをやらせたくなります。

クリスマスも近いということでその要素も挟みつつ、いつもの二人です。
困る割合は、狐の方が普段は多いです。


雁ヶ音ポン吉様に捧げます。
リクエスト、ありがとうございました!






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